2012年12月30日日曜日

Total Breakdown : DJ Shadow

僕の義父が鬼籍に入って4年以上経つが、死の間際まで技術者であり実業家であり続けた人だった。大学を卒業して藤倉電線(現フジクラ)に入社し、数年してから当時としては珍しく転職をした。転職先はオーディオ機器メーカーの赤井電機で、それから仕事の脂が乗りきっている時に独立を果たし、最後は経営者となった。

前述の赤井電機はハイエンドのカセットテープデッキで名を馳せ、70年代はベトナム帰りの米国兵が大挙して買って帰ったという。クイックリバース機能をいち早く採用して、80年代初頭に成長ピークを迎えたが、やがてデジタル化の波にもまれて経営破綻した。その後、AKAI professionalという電子楽器ブランドが独立したが、こちらも経営破綻。その後AKAIというブランドはNumarkに引き継がれている。

さて、AKAIと言えばAKAI MPCというサンプラーだ。今ではPCがハイスペック故にDJユースのメイン機材になっているだろうが、80年代後半~90年代前半のサンプラーといえばMPCであり、サンプリングのみで作られた史上初の作品として有名なのが、DJ Shadowの「Endtroducing...」(過去レビュー)だ。おそらく義父はDJ Shadowのことを知らなかっただろうし、今日紹介する作品のことも当然知らない。


Total Breakdown : DJ Shadow

前置きが長くなってしまったが、今年の夏にリリースされたDJ Shadowの未発表音源集がおそろしく素晴らしい。

サブタイトルの「Hidden Transmissions From The MPC Era.1992 - 1996」から分かる通り、この作品はAKAI MPCを駆使して作られた92~96年の未発表アーカイブだ。つまり96年にリリースされてサンプリングミュージックの金字塔となった「Endtroducing...」の前に蓄積された音源集だ。当然ながら途方もない量のヴァイナル、そしてターンテーブルとミキサー、MPCで作られているトラック群は有り得ないほどのグルーヴに満ちたヒップホップ~ブレイクビーツで構成されている。決して日の目を見ることもなく、溶かされるビニールとしての運命を辿っていったであろうファンクチューンやレアグルーヴが、DJ Shadowにより引き揚げられて再構成されていく。単なるリズムマシーンで打ち込まれたビートではなく、無名のドラマーが叩いたであろうドラムパターンが繰り返されることにより、リスナーは途方も無い快楽を得ることができるのだ。

これらの作品が作られたのが今から20年前。全く色褪せていないどころか、今の時代でも完全に有効だ。おそらく亡き義父に聴かせたら驚くことだろう。

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