2013年4月1日月曜日

The Next Day : David Bowie


The Next Day : David Bowie

偉大なアーティストが「大病を患った」だの「創作意欲を喪失している」だの「廃人寸前」だのと囁かれると、そりゃ誰だって鬱屈な気分になってくる。そんな中、何の前兆もなく10年ぶりに新作が届けられば、驚嘆と喜びをもって迎えられるもんだろう。それが予想以上に素晴らしい内容であれば、その殆どの人は救済されるはず。ボウイの新譜によって、少なくとも僕は救われた。精神的にタフな時期だったこともあって、このアルバムを聴くことで相当救われた。

ボウイ代表作とも言える「Heroes」(過去レビュー)の真ん中が白い四角で塗り潰されているジャケット。これの意味するところが何をか言わんや。常に過去を葬り去りつづけ、前進し続ける十字架を背負っているボウイ。やはりここでも、美しくあった自身の顔や過去を塗りつぶし、老いと向き合って明日に生きる決意を表明している。

内容的には自分自身のキャリアを総括しているものとなっているが、決して散漫になってはいない。むしろ、70年代に見られるグラマラスでアートな雰囲気、80年代におけるポップネス、90年代以降における最先端であり続けようとするオルタネイティヴ感覚といったそれぞれがさりげなく散りばめられ、66歳初老の男が美しく歌い上げる姿は統一感に満ちている。ここに収められたそれぞれの曲は、過去のアルバムに収録されても違和感のない既視感を持ちながら、決して焼き直しではない輝きを放っている。

誰だって老いを恐れる。その姿をさらけ出すことを躊躇する。そしてその先にあるものから目を背けようとする。でもボウイはここで全てを受け入れ、怒り、前を向いている。これほど美しいロックアルバムを聴くのは久しぶりだ。間違いなく今年最高の名盤であり、今後10年の中でもマスターピースとなるだろう作品だ。

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