2013年12月29日日曜日

Big Dream : David Lynch

早くも今年最後の投稿になりました。カルトの帝王であるデヴィッド・リンチ監督のセカンドアルバムについて触れますが、気が付いたら2年前の暮れにも監督のデビューアルバムを書いていたのね。あの時はまさか2ndをリリースするなんて期待していなかったので、嬉しい誤算といえます。


Big Dream : David Lynch


作風は前作を踏襲したもので、50年代ブルースにエレクトロニカを散りばめて、現代に昇華させたモダンブルース。怪しい映画を見ている錯覚に陥るような、耽美で妖艶な世界観が作られています。ダウンテンポで進んでいく不穏な世界でいながら、どこか安穏としているのは全編に渡って愛が満ち溢れているから。


相変わらず素晴らしいのが監督の歌声で、歪な生き物が蠢いているかのようなクレイジーさを叩き出しています。中でも白眉なのがスウェーデン女性歌手の Lykke Li をフィーチャーした「I'm Waiting Here」。DLコードでダウンロードできるボーナストラックなんですが、暗闇で輝く堕天使のごとく美しい。どこを切っても監督の映像作品を彷彿とさせる、まるで悪夢のように素敵な作品です。


2013年12月26日木曜日

ラーメン豚魂


森羅万象あらゆるものに魂が宿っているように、二郎インスパイア系のブタにも魂が宿っている。その店の名は豚魂(ぶたたま)。我が荒ぶる魂を鎮めるため、南武線の平間という所まで足を運びました。



ヤサイマシを頼んでいる客を見たら、とてつもない量の野菜が別のドンブリで出されていた。バイオレンスな予感を覚えてトッピングはヤサイチョイマシ。にも関わらず丼からこぼれ落ちそうな野菜が盛られてきた。豚のボリュームは少なめながら、豚の魂が宿っているが如く、柔らかくてジューシーだ。



天地返しをしたいところだが、とてつもない量をひっくり返すととんでもないことになる。仕方なく、キャベツ多めの新鮮なモヤシにスープをチョボチョボとかけて量を減らす。



適度に減ったところで「えいや」と天地返しすると、四角い断面の極太ストレート麺が顔を出す。まるで讃岐うどんのように表面はツルッとしており柔らかい。だけども   芯は固めでコシがある。スープは乳化しておりカネシ醤油の甘辛さが控え目。背脂豚骨スープのようにクリーミーでシルキーな喉越しとマイルドな舌触り。スープがあまりに美味しくて、思わず全部飲み干しそうになるところを自制。大満足して店を出たが「ああ、もっとスープを飲めばよかった」と後悔するほど中毒性が高い。わざわざ足を運んでまでも食す価値がある逸品だ。


住所:神奈川県川崎市中原区上平間1700-143

ラーメン豚魂ラーメン / 平間駅鹿島田駅新川崎駅 ) 
 夜総合点★★★☆☆ 3.8 
 昼総合点★★★☆☆ 3.8

2013年12月23日月曜日

From Top To Toe : From Time To Time



以前、中古屋でサルベージした「From Time To Time」の95年リリースアルバム。ジャケット裏にはメンバー名は書かれておらず、「Produced by Jun Tanaka, Yoshisuna」 と書かれている。Jun Tanakaとは田中純、つまりまりんこと砂原良徳が電気グルーヴ加入前に組んでいたユニット「O-TISM」のメンバーであり、Yoshisunaとは言うまでもなく砂原良徳のこと。つまり、まりんが「Crossover」(過去レビュー )でソロデビューを果たしていると同時に、アンダーグラウンドで過去の盟友と覆面ユニットの作品をリースしていたのです(ちなみに Thanks To には田中フミヤの名前も)。


モンドな「Crossover」とは対照的に、ここではフロアユースを意識した音作りになっています。骨格はBPM速めの、95年頃のミニマル。しかしながらアシッドフレイヴァーがそこかしこに散りばめられて、エレクトロニクスの使い方に楽天的な雰囲気が漂っています。入念に、丹念に、緻密になされた仕事のせいか、幾ら聴いても聴き飽きることがない。どこにも属していないオリジナリティが満載で、まりんはこの頃から凄かったんだなあと感心します。

2013年12月20日金曜日

デッド寿司


デッド寿司

日本が誇る鬼才、井口昇監督の「デッド寿司」をDVD鑑賞。これまで「片腕マシンガール」や「ロボゲイシャ」、「戦闘少女 血の鉄仮面伝説」を始めとする数多くのB級傑作を手掛けた監督だけあって、見逃すわけにはいきません。ちなみに「電人ザボーガー」は個人的に期待外れ、「ゾンビアス 」はハードルが高そうなので見る気がなかなか起きません。 伝説のすし職人である父親の厳しい修行に耐え切れず、家出をして温泉旅館で仲居として働くケイコ。怪しい男が旅館を訪れ、評判の寿司に謎の薬品を注入すると寿司が殺人兵器となり人々に襲い掛かる……というあらすじですが実にくだらない。相変わらず筋はあってないようなものなのに、最後まで観客をがっつり惹きつけるパワーは健在。 中でも見どころなのがケイコを演じる武田梨奈のアクションで、ただ者じゃない切れ味のあるアクションを披露。それもそのはず、空手黒帯有段者であり、数々の大会で実績を残しているガチな空手ガールなのです。ここまでアクションを演じきれる若手女優は今の日本映画界には皆無であり、この先に海外進出する可能性もありかもしれません。ちなみに年明け公開となる中川翔子主演、井口昇監督の「ヌイグルマーZ」にも出演しています。 すし、女体盛り、ゾンビ、スプラッタ、そしてまさかの伊丹十三作品の「タンポポ」オマージュと、B級感覚が大好きな人は必見の作品です。

 

2013年12月17日火曜日

ラーメン髭



二郎インスパイア系の中でもトップクラスと言われる「ラーメン髭」に行ってきました。事前調査によると「ニンニク入れますか?」コールの時に「ヤサイマシマシ」をお願いすると怒られるらしい。どうやら作る順序が標準二郎と異なり、注文されてから茹でるようだ。ヤサイマシをお願いしたい時は食券を渡す際に。「ニンニク入れますか?」と聞かれる時は素直にニンニクの量を伝えよう。




チャーシューメンを頼んだら、ブロック状の巨大な豚角煮が4つ搭載されてきた。こいつらが実にジューシーで食べ応え抜群だ。見た目は固そうだが、程よく味が染みておりホロリと噛み切れる。野菜はマシをお願いしたわけでもないのに、シャキシャキしたもやしがギッチギチに盛られている。極めて高密度に集積された、全人類への覚醒を促す小宇宙的一杯だ。



標準よりもやや細めの中太麺は平打ちで、ヤワメに茹でられていてチュルリンとした喉越しでモチモチしている。スープは非乳化なライトボディで、微かに背脂が浮いている程度。甘辛くてキレがあり、二郎王道よりも豚骨ダシ控えめの醤油スープ寄りだ。注文ルールや豚、ヤサイ、麺、スープのどれをとっても二郎マナーを踏襲しながら、独自の道を突き進んでいるインスパイア系。髭の店主が作っている姿を見て、インスパイア系を超越したアイデンティティを感じた。

住所:東京都大田区大森本町2-28-5
ラーメン髭ラーメン / 平和島駅大森町駅 ) 
 夜総合点★★★☆☆ 3.8 
 昼総合点★★★☆☆ 3.8

2013年12月14日土曜日

Electoronic Planet Vol.1 - Torema Classics


Electoronic Planet Vol.1 - Torema Classics

とれまレコードが設立20周年の編集盤をリリースするということで、94年にリリースされた本編集盤を改めて聴きなおしました。94年頃がテクノ的にどういった時代か振り返りますと、92年に英国でWarp編集盤の「Artificial Intelligence」がリリースされ、93年には英国でUnderworldの「Rez」、日本で電気グルーヴ「VITAMIN」、94年には「電気グルーヴのテクノ専門学校第1号」がリリースされています。この事から分かる通り、セカンド・サマー・オブ・ラブの終焉後、それまでアンダーグラウンドで蠢いていたテクノが徐々にメジャー化してきた時期でもあります。

メジャー化とは言ってもまだ細分化はされておらず、所謂ベッドルームテクノであるエレクトロニカやブリープテクノ、ガバ、ゴア、アシッド、レイヴ、ハードミニマルは全て「テクノ」と一括りにされていました。そんな中でも「テクノ」という単語と同義語だったのが「ハードミニマル」であり、とりわけ日本におけるハードミニマル代表格だったのがとれまレコードでした。

と、思っていたんですが、久々に聴きなおして驚いた。今の耳で聴くと当然ながら全くハードじゃない。いや、あの当時ゴリゴリに硬い音を鳴らしていたのは他ならぬ田中フミヤ本人で、レーベル代表格のLast Frontでさえプログレッシヴハウスっぽい。日本テクノ史を振り返る上で一資料としての価値はあるけども、もちろん全体像を把握出来るわけではありません。ただし、これだけは言えます。CD帯に書かれているコピー「大阪いちの不良レーベル」というのは伊達ではなく、とれまレコードこそが日本のテクノを切り開く原動力になっていたのです。

2013年12月11日水曜日

ホープ軒




先日、千駄ヶ谷~国立競技場方面に用事があったので、久々に東京背脂チャッチャ系ラーメンの老舗中の老舗「ホープ軒」に行ってきました。この店がなかったら野方ホープもらーめん弁慶も千石自慢ラーメンも、果てには二郎も無かったであろう歴史的名店と言えます。その昔、今のようにラーメン屋が乱立する前は選択肢が非常に限られていました。その中の一つとしてこのお店は燦然と輝いており、脂ぎったラーメンの代名詞的存在でした。店内にはくさい豚骨臭が漂い、床は脂で滑りやすい。いるだけで胸焼けしてしまう、そんなお店だったのです。



で、久々に訪問したところ、やはりね…時代の趨勢には勝てないというか、軒先貸して母屋を取られる、みたいにオールドスクールな味になっていました。チャーシューメンを頼みましたが、これで950円は高いと思う。豚バラロールはかろうじて及第点だったものの、背脂の量が非常に少ない。麺はぶっといものの明らかに茹で過ぎてヤワヤワだし、モヤシだってくたくたになったのがほんのちょびっとだ。



量的にも満足できるものでなく、全てが残念な味になっていた。昔はもっともっとギトギトしており、触るもの皆傷つけるようなエッジのある存在だったと思う。麺固め、脂多め、味濃い目でお願いすればよかったのか?だが、決して忘れちゃいけない事実が一つだけある。僕たちが普段食べているG系ラーメンの原点がここにあるということだ。

住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷2-33-9
ホームページ:http://www.hopeken.co.jp/
ホープ軒ラーメン / 国立競技場駅千駄ケ谷駅北参道駅
夜総合点★★☆☆☆ 2.9
昼総合点★★☆☆☆ 2.9

2013年12月9日月曜日

Groovy Potential : Prince


Groovy Potential : Prince

今年8月に 3rdEyeGirl からリリースされた新曲。印象的なピアノリフから始まり、新緑が薫るようなキャッチーなメロディ、メロウに吹き鳴らされるホーンセクションによって、殿下の中でも久々に爽やかなソウルチューンに仕上がっています。各パートが徐々にビルドアップされ、終盤に向かってグルーヴ感が増していき、最終局面ではいきなりの転調。なかなかの佳曲でした。

2013年12月7日土曜日

The Breakfast Experience : Prince


The Breakfast Experience : Prince

既にリリースされているシングル「Breakfast Can Wait」のリミックスEPが発売されています。3rd Eye Girl だけでなく、Amazon でもiTunes でも売られているんですが、曲によっていろんな販売チャネルを使う統一感の無さが殿下らしい(発言の一貫性も含めて)。

そもそもジャケットの人って誰?!って感じですが、Chappelle's Show という番組のホストを務める Dave Chappelle というコメディアンで、プリンスの物真似が得意なんだとか。気難しそうな殿下なのに、面白がってジャケットに使っているのが意外です。ちなみに「Breakfast Experience」とはペイズリーパークスタジオで行われたパジャマパーティのこと。正確には「The Breakfast Experience Pajama Dance Party」というライヴだったそうで。

さて、タイトル曲は 3rd Eye Girl が立ち上がったばかりの時にリリースされた楽曲(過去レビュー )。その後サイトがリニューアルされたのに伴い配信停止になっていましたが、夏頃になって何故か復活。ジャケットにも気合が入っていることから(笑)、かなり殿下のお気に入りトラックなんでしょう。

続いて、リミックス曲の中でも「Breakfast Can Wait (Espresso) 」だけはフロア志向のディスコチューンになっていますが、それ以外のリミックス曲はオリジナルと同じ路線。大改修リミックスというよりはマイナーチェンジを施された程度で、かつての「The Beautiful Experience」(過去レビュー )と似た雰囲気を感じます。

2013年12月5日木曜日

Something In The Water : 3rd Eye Girl



Something In The Water : 3rd Eye Girl

プリンスの傀儡バンド 3rd Eye Girl が新曲をリリースしています。ペイズリー・パーク・スタジオで行ったリハーサル音源で、オリジナルは名盤「1999」(過去レビュー)に収められています。82年当時でこのような曲を作ったこと自体、まず驚愕を禁じ得ません。リンドラムで構築されたシンプルなビートの上に、主だったメロディのない呟きのようなボーカルが展開されていく。ベースが排除されて、機械的なシンセ音がわずかながらの装飾になっている。プリンス風ミニマル=マシン=ファンクの極北とも言える作品です。

さて、バンドによるカバーはオリジナル作風とは全く異なり、ブルージーでジャジーでソウルフルな激渋チューンに変貌を遂げています。Sly & The Family Stoneのように途方もないファンキーベース、後半から繰り広げられる殿下のエロティックギターソロ。歌詞こそ同じなれど、メロディや演奏はまるで別の曲。オリジナルが非常に地味な存在ながら、こういった隠れた名曲に再スポットを当て蘇らせる。さすがの手腕としかいいようがありません。

2013年12月3日火曜日

すずき家


「ここ最近、二郎系ばかりではバランスが悪いな」と思い、久々に横浜家系を訪問。今回はわざわざ京急子安まで行ってきました。横浜のラーメンと言えば家系ですが、ここ最近は都内にも勢力を広げつつあり、更には太平洋を越えて米国ベイエリアにも家系の店が出来たようです。さて、家系の中でも人気があるのが上星川の「寿々喜家」(過去の記事)ですが、このお店は関係がないようです。


醤油チャーシュー麺(並)を麺固めで頼みます。炙られたチャーシューが5枚も乗っており、口に入れればほろっと溶ける柔らかさ。家系ラーメンに使われているチャーシューと言えば固めの豚ロースなんですが、ここのは珍しく豚バラロール。香ばしくてジューシーで、数ある家系の中でも突出している出来具合だと思います。また、家系には珍しくウズラの卵が使われています。


マイルドでクリーミーな豚骨醤油スープは非常にまろやか。口当たりが良くてトゲトゲしさや雑味がない。すっきりしていながらコクがあって、丹念に仕込まれているのが良く分かります。モチモチしててコシのある中太短めの縮れ麺は、香ばしくてスープとの相性も良い。接客サービスも非常に良くて、気持ちよくラーメンを楽しむことができる。気が付いたら久々にスープを全部飲み干してしまっていた。全てにおいてバランスが良く、数ある家系の中で人気店なのも頷けるお店でした。

住所:神奈川県横浜市神奈川区子安通1-5-4 
ホームページ:http://www.ramen-suzukiya.com/ 
すずき家ラーメン / 子安駅神奈川新町駅新子安駅) 
夜総合点★★★☆☆ 3.9 
昼総合点★★★☆☆ 3.9

2013年12月1日日曜日

Blue : Moritz Von Oswald Trio


Blue : Moritz Von Oswald Trio

レジェンドの Juan Atkins と共演を果たしただけでなく、Max Loderbauer や Vladislav Delay と共に「Moritz Von Oswald Trio」としても継続的に活動している Moritz Von Oswald。昨年はトリオ名義でアルバム「Fetch」(過去レビュー)をリリースしましたが、今年は新作シングルをリリースしています。2000年前後の寡作っぷりが嘘のようなペースです。

タイトル曲のミックスに Juan Atkins も加わっているようですが、音が極限までそぎ落とされたミニマルな鳴りっぷりは他者の追随を許さないもの。緩く、そして重く刻まれるリズムとベースが一切の感情を排して続いていく。その上を揺蕩うわずかな電子音とシンセリフのみがリスナーを繋ぎとめる。これこそがミニマルダブの極北と言えるものであり、Moritz Von Oswald の真骨頂と言えるものだ。また、タイトル曲のダブバージョンでは、只でさえダブ的な音響を更に深化させている。音の響きはますます重たくなり、煙たいアトモスフィックな質感が感覚を揺さぶり続けます。