2014年6月27日金曜日

Reflektor : Arcade Fire

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モントリオールを拠点とする北米インディーズバンドから、時代の期待を一手に担うバンドへと成長した Arcade Fire の昨年度作品が素晴らしい。アナログレコードのA面/B面を意識した作りのような CD 2枚組の大ボリュームもさることながら、これまでのロック/ダンスミュージック史に対する大いなる敬愛が感じられるからだ。

70年代NYディスコを人力で重心低く表現することで、EDMの終焉を遠回しに示唆(この辺りは Daft Punk が推し進めた方法論と交差している)。ドラムとベースをねっとりと粘りつくように演奏することにより、グルーヴをたっぷりと醸し出す。一方ではスティールパンを打ち鳴らし、音響をダビーにすることで、中南米の祝祭感覚をも演出。それと同時に60~70年代から累々と続いているロック史(ビートルズ、モータウン、トーキングヘッズ等々)を俯瞰しつつ、80年代におけるニューウェーヴへも惜しみなく賛美。特にビルボードチャートを賑わせたヒット曲の引用やオマージュが素晴らしく、終盤における「Afterlife」は New Order の超名曲「Temptation」の生まれ変わりとしか思えない。

そこかしこに仕掛けが施されているので、ロック支持者ならばにんまりしてしまう。時代とジャンルを超越したロックと音響を鳴らしつつ、現代におけるエモーションと彼ら独自の音を両立させた本作は、ここ数年のロック作品の中でも名作に位置付けられるものだ。

2014年6月23日月曜日

らーめん豚義


アラフォー以上の世代なら必ず知っているドラマ「金曜日の妻たちへ」。そう、「金妻」として知られ、日本中の主婦層に不倫願望とセレブリティ願望を植えつけた83年ドラマだ。舞台となったのは東急田園都市線 屈指の高級住宅地として知られ、たまプラーザ~あざみ野に広がる「美しが丘」という街だ。そんなセレブリティな街にとうとう黄色い看板を掲げるラーメン店が2014年6月にオープンした。その名は豚義。


そもそも「義」とは儒教の主要な思想であり、五常(仁・義・礼・智・信)の一つとして知られる。正しい行いを守ることであり、人間の欲望を追求する「利」と対立する概念として考えられている。その「義」の前に、人間の欲望を追求する「利」と同義ともいえる「豚」という文字が掲げられている。実に深い店名だ。車の往来が激しい通り沿いにあるが、離れたところに駐車場が3台分確保されているのが嬉しい。ともあれ、普通盛りのラーメンを注文する。前払いではなく、食後に支払うシステムになっているのに注意されたい。着席すると無料トッピングを尋ねられるので、ヤサイニンニクアブラをお願いした。


均整の取れた美しいエクステリアを誇る麺が着丼。高くそびえ立つ野菜の頂上にはツゥルッツゥルな半固形アブラが散りばめられている。見目麗しいその姿はジロリアンだけでなく、美しが丘のセレブリティをも魅了するに違いない。野菜はキャベツの比率がやや高く、シャキシャキ感やボリューム感は申し分ない。レンゲでスープを啜ると、二郎特有の甘辛さはあるものの、塩分はそれほど立っていなく控え目だ。ややとろみがかった油ギッシュなスープは、二郎本流と何ら遜色のない出来といえる。そのスープににんにくを溶かして旨味を演出させたところで、旨味スープを野菜にふりかけてもしゃもしゃと食い進む。


適度に野菜を減らしたところ、ほろほろに崩壊した豚がこんにちは。かなり煮こまれているせいなのか、柔らかさと凝縮された旨味が素晴らしい。惜しむらくはそのボリュームで、小ぶりに粉砕された豚のかけらが複数個投入されているのみ。このクオリティを保持しつつ、もう少し量を増やしてほしいところだ。


高い剛性を持った極太麺をリフトアップすると、やはりこの麺のボリュームは只者ではないことが分かる。ゴワゴワした食感は百戦錬磨のジロリアンを唸らせるに違いなく、地元のセレブリティ不倫カップルの精力を漲らせるのに一役買うだろう。開店直後なのにここまで完成度の高い麺を提供するとは実に恐れ入る。二郎本流に比べてジャンキーな攻撃性は低いが、今後の躍進を期待できるニューホープがここに誕生した。

らーめん豚義ラーメン / たまプラーザ駅あざみ野駅
夜総合点★★★☆☆ 3.9
昼総合点★★★☆☆ 3.9

2014年6月19日木曜日

Rave Tapes : Mogwai

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前作「Hardcore Will Never Die But You Will」(過去レビュー)から3年ぶりとなる、ポストロック代表格 Mogwai の新作タイトルおよびジャケットに惑わされてはいけない。レイヴな感覚などは殆ど無く、ジャケットから想起されるような直線的エレクトロニカでもないからだ。おそらくシニカルな彼らのことだろうから、深い意味などを持たせず、するりと逃げてしまうような掴みどころの無さを表現しただけだろう。

ここでは最近の作風に見られるような、轟音を抑えた静謐なアンビエンスを追求。アナログシンセサイザーを導入するなど新機軸も見られるが、路線を大きく転換するような変貌ぶりはない。敢えて言えば、過去の作品から連続性を保ちつつ、緩やかに変化している彼らがいる。それでもぶれていないのは、彼らが本来持ち合わせている叙情性が貫かれているからだろう。厳かに静かに降る雨の如く、美しく響いている音に耳を澄ませばいい。寄せては返す波のように激しい優しさを感じ取れるに違いない。

2014年6月15日日曜日

J-LOW麺 青葉台店


横浜市青葉区に位置する青葉台駅。そこから20分ほど歩いた閑静な住宅街。緑鮮やかなこの地に、突如として黄色い看板を掲げたラーメン屋が登場した。「J-LOW麺」という店名の頭文字にある「J」とは何か?町田にある「jun-pey ra-men 」を経営する河島淳平 氏がオープンさせた店ということで、「淳平」から因んでいるらしい。それと同時に「二郎」の「J」とダブルミーニングであることは間違いなさそうだ。


入店するとヘヴィメタリックな音楽が耳に飛び込んできた。どうやら店主は Pantera や Megadeth といったラウドロックやヘヴィメタルが好きなようだ。取りあえずスタンダードメニューであるJ-LOW麺を中(300g)で注文する。着席するとすぐに「お好みは?」と聞かれたたので、慌てて「ヤサイアブラ」とパブロフの犬のように答えてしまう。卓上メニューをみると麺の固さ・味の濃さ・脂の量を選べるとのことで、家系システムを導入しているようだ。もちろん、ヤサイ(もやし)とにんにくの増しもできるので、家系と二郎系のハイブリッドといったところだろう。


しばらくすると巨大な器に盛られたJ-LOW麺 300g が着丼。その瞬間、店内で流れていた音楽のヘヴィなベース音が胃を揺さぶった。これはひょっとして注文する量を間違えたのではないか?トッピングを追加する必要はなかったのではないか?既に視覚的に満腹感を覚え、「完敗」という文字が脳裏をよぎる。キャベツ少なめのモヤシ中心ヤサイががっつり盛られ、分厚い大判チャーシューが一枚に、細かい刻みチャーシューが複数ブロック投入されている。店内の音楽と同様、攻撃力が極めて高そうだが、これを迎撃する気持ちが一気に高まってきた。


スープはやはり家系と二郎系の中間に位置するものであり、二郎系の甘さはそれほど感じられない。醤油にこだわっているようなので、とろみのある濃厚な豚骨醤油と言ったところだろう。極太麺はヤワメに茹でられており、メンカタで頼んだ方がワシワシ感を堪能できたかもしれない。それにしてもこのボリュームが凄まじいので、敗北しそうに萎えていく気持ちになってくる。気持ちを奮い立たせるために巨大チャーシューを喰らうと、味がじんわり沁みこんだ柔らかい肉が束の間優しい気持ちにさせてくれる。額には徐々に玉のような汗が浮かび上がり、眉間にはしわが刻まれ、表情は苦悶へと変わっていき、胃袋が破裂する寸前でようやく完食することができた。店主のロック魂を思う存分堪能できる一杯であった。

J-LOW麺 青葉台店ラーメン / 恩田駅青葉台駅田奈駅
夜総合点★★★☆☆ 3.6
昼総合点★★★☆☆ 3.6

2014年6月11日水曜日

Dots : Flare a.k.a. Ken Ishii

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己の好きなことを追求するのがアーティストとしての理想形であることはいうまでもない。ただしそれが全て飯のタネに繋がるわけでもなく、マスマーケットを意識した活動が必要なのも事実。当ブログだって当初は音楽のみを扱ったブログであったが、マスマーケットを意識して好きでもないラーメンを食べ続け、いつの間にかB級グルメブログと呼ばれるようになってしまったのだ(つーか、俺アーティストじゃなかったし)。

そんな中、多面性を持ったアーティスト活動を繰り広げ、デビュー20周年を通過したケン・イシイはリスペクトされてもされ過ぎることはないアーティストと言える。師でもあるデリック・メイから与えられた「食いぶちを稼ぐにはDJだ」という助言を実行し、DJ活動で世界中のクラウドを熱狂させ、世界トップレベルのDJへと上り詰める。また、複数の名義を使い分け、Flare 名義では自身のエクスペリメンタルな作家性を追求し続ける。

96年以来、17年ぶりに昨年リリースされた Flare 名義の新作も実に実験的で、どこまでも自由だ。まさしく96年作品「Grip」(過去レビュー)の延長線上にある作品で、デビューアルバム「Garden On The Palm」(過去レビュー)と同文脈で語られても違和感のないエレクトロニクス・ミュージック。前作にはとがった感性が満ち満ちているのに比べ、本作には創ることを楽しんでいるリラックスした雰囲気が漂っている。唯一無二のオリジナリティがふんだんに盛り込まれた、ケン・イシイならではの実験音楽だ。

2014年6月7日土曜日

豚骨醤油 蕾


比較的地味な街ながら、下町風情と懐の深さを感じさせる大井町。何よりも様々な味のラーメン店が軒を連ね、しかもそのそれぞれが品質の高い麺を食わせてくれるのが嬉しい。今回は住宅街の中にぽつんと佇む「豚骨醤油 蕾」を訪問しました。


「豚骨醤油」を店名に掲げているということは、つまり横浜家系ということなのか?いや、おそらくは東京で独自進化を遂げた味なのだろう。メニューをざっと見れば、横浜家系と違ったアプローチをしているのが感じられる。取りあえずは「蕾 キャベツ」を大盛りで注文した。家系であれば麺の固さ、味の濃さ、脂の量を尋ねられるが、ここでは何も尋ねられなかった。


色鮮やかに茹で上げられたキャベツ山盛りの麺が着丼した。スープに張られた油膜の層は厚く、これが熱封じの役目を果たしている。味は家系よりも上品と言えるものだが、悪く言えばワイルドさに欠ける。臭みはなく、クリーミーですっきりとしているが塩分はやや高めだ。しゃきしゃき感の残ったキャベツを、このスープに浸して食えばちょうど塩分バランスが取れる。


中太の麺はもっちりとしており、こだわりのある作りになっているのが分かる。1枚のみのチャーシューはそれとなく及第点と言ったところで、特に印象に残らなかった。ちなみに大判の海苔は3枚入っている。全般的に言って非常にバランスの取れた一杯となっていたが、やはり家系とは異なった豚骨醤油ラーメンだ。普段食べ慣れている味とは違っていたが、すっきりした豚骨醤油を食いたい時にこれはこれでありだろう。

豚骨醤油 蕾ラーメン / 大井町駅下神明駅西大井駅
夜総合点★★★☆☆ 3.5
昼総合点★★★☆☆ 3.5

2014年6月3日火曜日

攻殻機動隊ARISE O.S.T. : Cornelius

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攻殻機動隊にそれほど詳しいわけではなく、20年も前に原作を読んだくらい。ただしその思想は映画「マトリックス」の根幹を作り上げ、サイバーパンクのバイブル的存在になっていることは知っている。そんな作品が様々なメディアに枝分かれした後、去年以降には前日譚とも言うべき「攻殻機動隊 ARISE」が公開されています。そしてその音楽を手がけるのは Cornelius。映画を観ていないのでなんとも言えないんですが、アルバムは映画にそぐわっているものなのかな?確かにこれまでの作風に比べて随所がテクノ-オリエンテッドになっているんだけど(特に四つ打ちミニマル「Highway Friendly」や明らかにDAFを意識した「ToughDAF」はCorneliusとは思えない!)、やはり三つ子の魂百までというか清涼かつ音響的な作風はサイバーパンク的には聴こえないんだけど。

salyu×salyu をフィーチャリングした「じぶんがいない」あたりは音が研ぎ澄まされて素晴らしい。はたまた実験音楽のような冒険心に溢れたトラックがあるのも好印象。パッケージも前作「デザインあ」(過去レビュー)を踏襲しつつのトランシーな作りになっていたりと随所にこだわりが。でもやはり総じてサイバーパンキッシュではない。Corneliusがこれまでのマンネリズムを打破しようとした結果なのかな。サントラではなくCorneliusとしての独立作品として聴けばそれなりに楽しいのかも。