2014年11月27日木曜日

紫 くろ喜


言うまでもなく日本で一番、いや世界屈指のラーメンシティである東京。チェーン店を含めるとおそらく一万店を超える店舗数になるであろうメガラーメンシティにおいて、食べログ評点が4.0を超えるお店がわずかながら存在します。その内の一つが浅草橋にある「紫 くろ喜」です。普段は「饗 くろ喜」として営業していますが、金曜日のみ「紫 くろ喜」とその名を変えて営業し、限定メニュー「鴨そば」を提供するというマニア心をくぐる営業形態になっています。


入店して「鴨そば」の細麺を注文。ご覧の通り、細麺にはパン用小麦粉が主に使用されており、もう一つの手もみ麺にはうどん粉が主に使用されているとのこと。通常の「鴨そば」以外に「鴨つけそば」や「白湯つけそば」も用意されている。こちらも気になるところです。また、スープに使われているカエシやダシにも相当こだわりがあるようで、卓上の説明文を読むと否が応でも期待が高まります。


また、それぞれの具材の品質にもこだわり抜いており、上品な蕎麦屋のような佇まいと相まって、ラーメン店のクオリティも遂にここまで来たのかと軽く感動します。


上質な器に盛られて「鴨そば」が着丼。濃い目の醤油スープに浮かんでいるのは、拍子切りにされた甘みのある長葱、綿実油とにんにくでコンフィ(フランス料理の調理法が使われたラーメンは初めて見た)にされたという玉葱(個人的には最高の品質である淡路産だ)、むっちりと柔らかくも適度な食感が素晴らしい鴨ロース、旨味がじんわりとしみ込んだ柔らか極太メンマに新鮮な春菊です。やはりラーメンの枠を超えているとしか思えない。


スープは様々な生醤油・本生醤油・再仕込み醤油をブレンドさせたことにより、始めはシンプルな味わい、やがて複雑に広がっていく深みと奥深さを感じさせる。ダシも鴨の様々な部位を使っているそうで、まさしく骨の髄まで鴨を使い切った至高な醤油スープに仕上がっています。極細ストレート麺はお店の触れ込みにある通り、絶妙に配合された小麦の風味が香ばしく、歯応えとコシがあってスープとの相性も素晴らしいです。じっくりと五感を開放して、全ての感覚を研ぎ澄ませることによって味わえる奥深さ。実に完成度の高い一杯でした。

紫 くろ喜ラーメン / 浅草橋駅岩本町駅秋葉原駅
夜総合点★★★☆☆ 3.7
昼総合点★★★☆☆ 3.7

2014年11月23日日曜日

Unplugged 1991-2001 : R.E.M.



真のオルタネイティヴバンドとして、解散してもなお絶大なる支持を得ている R.E.M.。そんな彼らが今年4月のレコードストアデイに「MTV Unplugged」の音源をアナログリリース、6月には待望のCD/デジタル音源をリリースしました。そもそも今となってはすっかり廃れてしまったMTVの人気番組「Unplugged」ですが、特に90年代はロックシーンに対して絶大なる影響度を誇っていました。ロック界の超大物たちが轟音を控え、アコースティック楽器のみ使用することによって、楽曲の本質が浮き彫りにされるさまが人気を博したのでしょう。特にR.E.M.に至っては1991年と2001年に2回も出演しており、唯一の2回出演アーティスト/バンドだとか。それは取りも直さず米国で途方も無い人気があると同時に、Unplugged と相性が良いバンドだからなんでしょう。

1991年に収録された音源は、彼らが大ブレイクした直後ということもあり、「Out of Time」(過去レビュー)と「GREEN」(過去レビュー)からの楽曲が多い。また2001年音源には当時の最新作「Reveal」(過去レビュー)を中心に、ドラム担当のビル・ベリー不在のバンドの風景を伝えています。ただし1991年と2001年の間にある10年の時間差は全く感じられず、彼らの楽曲が持つ美しい歌心と、それを情感豊かに表現するマイケル・スタイプの姿は常に一貫している。その普遍性に素直に感動させられるライヴ音源でした。

2014年11月19日水曜日

綱島商店


綱島駅の近くをウロウロしていた時、何の前知識もなくふらりと足を運んだお店。これまでに何度か言及している通り、日吉~綱島エリアは横浜北部の中でもラーメン激戦区として知られ、ひと通りの味を試すことが出来るエリア。そんな綱島駅から超至近距離(というより駅の一部)にあるこのお店はどうやら横浜家系ラーメンを食わせてくれるらしい。店内に入り「ラーメン(並)」の食券を購入し、麺固めをお願いする。11:00~18:00はミニライス無料(しかもおかわり自由)とのことなので、こちらも迷わず注文。それにしても店員さんのコール&レスポンスが大声で気分が少々萎えてくる。この雰囲気と店名に既視感を覚え、ネットで検索したところ店主は「町田商店」(過去の記事 )出身とのこと。やはりそうか…。店員の掛け声の大きさに辟易したことを思い出し、警戒度は最大限になる。


使われている具材はザ・家系とも言えるチャーシュー、ほうれん草、海苔に、町田商店の源流である「壱六家」のアイデンティティとも言えるウズラの卵。チャーシューは豚ロースではなく、豚バラロールを使っておりホロホロと柔らかくて好感が持てます。ほうれん草もそれなりに新鮮で量もあり、こちらも好感度大。スープを啜ると丸みがあって、クリーミーマイルドな豚骨醤油。本流の「吉村家」(過去の記事 )が持っている濃度高めのコクうまスープというよりは、今やトップクラスの家系へと成長した子安の「すずき家」(過去の記事 )のようにまろ味のある優しさ満点スープ。これは意外な出来具合でした。ちなみに卓上にきゅうりの漬物が置いてあるので、これをミニライスにたくさん載せてばくばく喰らう。ラーメン本体と非常に相性がよろしい。


緩くウェーブがかかった中太麺はは通常よりもやや太めで短い。モチモチもっちりしており、ズバズバと食が進む。適度に量が減ったところで、卓上無料トッピングの刻みタマネギやにんにくを投入して味変を楽しむ。玉ねぎですっきり感、にんにくでコクを出し、目を閉じながら様々な食材のハーモニーを堪能する。気がつけば汁完してしまい、何だかんだ言って心ゆくまで芳醇な家系ラーメンを堪能した。当初maxまで引き揚げられた警戒感は完全解除され、また来たいという思いさえ感じてしまう。店員さんの大音量コール&レスポンスさえなければ完璧なんだけどな。

綱島商店ラーメン / 綱島駅
夜総合点★★★☆☆ 3.6
昼総合点★★★☆☆ 3.6

2014年11月15日土曜日

Beck Song Reader

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楽譜のみで2012年にリリースされていた Beck の超問題作がようやくCDとしてリリースされました。楽譜発表当時はプロアマを問わない無数のアーティストがカバーし、ネット上に数多く公開されてきました。今回のCDリリースにあたっては Beck 本人の演奏1曲を含め、様々なアーティスたちがカバーした20曲が収録されています。楽譜リリース当時は「おれ楽譜読むの得意じゃないし、読めたとしても演奏できないしなぁ」と地団駄踏んでいたので、今こうやって正式音源化されたのは非常に嬉しい。

とは言ってもカバーしているアーティスト達は馴染みのない人ばかり。有名どころといえば米国を代表する歌姫 Norah Jones に、ロックンロール復権に一役も二役も買っている問答無用の Jack White、パルプの Jarvis Cocker に、Jack White に対する冗談としか思えない俳優の Jack Black といったところ。どの曲も Beck 本人が持っているフォーキーでカントリーな脱力加減やシンプルさを思い思いに表現しています。ただ残念なのは、当然ながらアルバムとしての統一感が全くないこと。また、Beck ならではの完璧なサウンドプロダクションやアレンジメントまでは表現しきれていないこと。

この楽譜がリリースされた当時、既存の音楽パフォーマンスやレコーディングに対する問題提起だと騒がれていた。でも Beck 本人の体調が悪かったこともあって、楽譜のみという体裁を取ったのかなあ。あくまでも推測なんだけど。

Tracklist:

01. Moses Sumney – Title of This Song
02. Fun. – Please Leave A Light On When You Go
03. Tweedy – The Wolf Is On The Hill
04. Norah Jones – Just Noise
05. Lord Huron – Last Night You Were A Dream
06. Bob Forrest – Saint Dude
07. Jack White – I’m Down
08. Beck – Heaven’s Ladder
09. Juanes – Don’t Act Like Your Heart Isn’t Hard
10. Laura Marling – Sorry
11. Jarvis Cocker – Eyes That Say ’I Love You’
12. David Johansen – Rough On Rats
13. Jason Isbell – Now That Your Dollar Bills Have Sprouted Wings
14. The Last Polka – Marc Ribot
15. Eleanor Friedberger – Old Shanghai
16. Sparks – Why Did You Make Me Care?
17. Swamp Dogg – America, Here’s My Boy
18. Jack Black – We All Wear Cloaks
19. Loudon Wainwright III – Do We? We Do
20. Gabriel Kahane with Ymusic – Mutilation Rag

2014年11月11日火曜日

RA-MEN ICHI


閑静な住宅地である武蔵小山は、何を隠そう小ぶりなラーメン激戦区。これまでに「ボニート・ボニート」(過去の記事 )や「九州ラーメン 銀嶺」(過去の記事 )を訪問したことがありますが、何を隠そう二郎インスパイア系「RA-MENICHI」を目指す度に「ちーん」とやられてしまったから。どうやら店主が体調を崩していたようなのですが、今年の夏ごろから弟子らしき男性二人で営業再開したようです。看板には二郎を越えた数字の「1」と、ヤサイマシマシのシルエットが黄色く描かれています。前の看板は白地に黒で書かれていたのですが、マイナーバージョンアップしたことにより本家へのオマージュ度合が増したようです。ちなみにこのお店の常連をイチリアンと言うとか言わないとか。


「小ラーメン」(700円)の食券を手渡して、調理している様子をカウンター越しに眺めていると、麺を2度茹でしていることに気付く。初めは温度高めのぐつぐつ沸騰したお湯、2回目は低めのお湯。この茹で方が何を意味するのか、麺を実食して気付くことになる(詳細は後程)。やがて無料トッピングを尋ねられるので、脊髄が勝手に反射して「ヤサイアブラ」の言葉が口から出てきます。やがて着丼した山を上方から眺めるの図。キャベツ比率がやや高めのヤサイに、アブラがばっちりまぶされているが分かるでしょう。コラーゲンたっぷりで健康にも良さそうだ。スープの油膜もやや厚め。


山を横から眺めるの図。もはや食べ物という次元を超えた球体、いや真球と言ってもいい。写真には陽炎のように立ち上っている湯気が見えるが、あっつあつに茹でられたヤサイはシャキシャキ感が若干残っているものの、全体的にはクタ気味な茹で加減。それにしてもこの盛り方は、今まで食った二郎系の中でも芸術の域に達しているほど美しい。この美しい山にブタが潜んでいるんだが、やや小ぶりの塊が2、3入っているだけでした。柔らかさはそれほど感じられず、やや硬めに煮込まれたブタはそれほど特筆すべきものではありませんでした。


ヤサイのかさを減らしたところで天地返しすれば、エッジのある四角い断面の極太剛毛麺が登場しました。表面は滑らかで柔らかく、噛みしめれば芯のもっちり部分も感じられるアルデンテ。前述した2度茹でにより、2段階の食感がうまいこと演出されています。麺の表面にはライト寄りのジャンクな味わいのスープが馴染んでおり、時間経過とともにくたくたになったヤサイと玉石混淆の小宇宙を形成しています。とは言えどもスープは本流ほどのヤバさは感じられず、豚骨から滲み出てくるコクも、カネシ醤油系のカエシが放射する甘みも塩分も控えめ。基本に忠実ながら無難にまとめたという印象です。麺の茹で方は上等、ヤサイの盛り方は芸術的、全体ボリュームは凶暴、総体的には優しい二郎系、といったところです。

RA-MEN ICHIラーメン / 武蔵小山駅西小山駅
夜総合点★★★☆☆ 3.7
昼総合点★★★☆☆ 3.7

2014年11月7日金曜日

Whorl : Simian Mobile Disco

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(ほぼ)生演奏の作品により EDM 全盛シーン一石を投じたのが Daft Punk の「Random Access Memories」(過去レビュー)だったんですが、Simian MobileDisco は電子音楽の枠内ながら、別のアプローチ法で EDM に異を唱えています。PC およびプラグインソフトウェアを一切使わず、特注のモジュラー・シンセサイザーとシーケンサー、ミキサーのみを使用し、しかも一発録りライヴ録音を実施。これにより画一的なダンスミュージック要素を排除し、実験的アプローチ溢れる電子音楽に進化を遂げています。

作品全体から漂ってくるのはかつてのジャーマンプログレッシヴロックの香りや、Warp 寄りのひんやりとしたエレクトロニカな雰囲気で、デビュー当時のニューエレクトロ風情は感じられない。ミニマルかつアナログな機材を駆使することで肉体性も生まれてきており、明らかに既存の電子音楽とは差別化を図っている。ここまで EDM が台頭してくると、何がポップミュージックで何がダンスミュージックなのか境目がなくなってくるが、その危機感を一番覚えているのは前述の Daft Punk であり、SMD なんでしょう。

2014年11月3日月曜日

らぁめん夢


横浜のみならず神奈川県屈指のラーメン激戦区である東神奈川~白楽エリア。そんな猛者どもが集いしエリアで、今年オープンしたばかりの新規店があっという間に食べログの上位ランキングに食い込んできました。その名は「らぁめん夢」。ミュージックパブ「たかこ」を居抜きで使っているので、「たかこ」の看板が掲げられたままです。パッと見はラーメン店に見えないんだけど、行列が出来ているので迷うことはありません。店主が一人で切り盛りしているんだけど、回転率はそれほど悪くないので長く待たされることはない。


950円の「特製らーめん」を注文します。表面に鶏油がシルキーに張られており、「飯田商店」(過去の記事 )のラーメンと共通点を感じるエクステリア。店内には飯田商店にもあった「あきらめねぇよ!!」のタオルがタオルが飾られていたが、店主は飯田商店の出身ではなく、町田の白河中華そば店「一番いちばん」出身とのこと。お店のTwitterを見る限り、無化調を是とする様々なラーメン店とコネクションを持っているようだ。何はさておき、透明度の高いスープを啜ってみると鶏の旨味とコクがある醤油スープにやられる。シンプルなんだけど深い味わいとキレがあります。具材に使われているのは甘くて柔らかい豚バラ、スモーキーでしっかりした食べ応えのある豚ロース、上品で優しい鶏胸肉の3種類。味付け玉子は黄身が甘くてとろとろ。雲呑は表面がとぅるんとぅるんで、肉もがしっと詰め込まれている。メンマやほうれん草も新鮮だ!


そしてこの店の一番の特徴である、注射器で提供される「煮干油」。こいつを途中で投入することにより、鶏がらメインの醤油スープが煮干しの香り立ちこめる魚介系スープへと変身するのだ。ただし、注射器を押す加減が難しく、勢いよくどぴゅっと出てしまった。それでもこの演出は画期的なシステムだ。


ストレート細麺はつややかにコシがあり、適度な固さがキープされており噛み応えあり。表面はつるりとしているが、噛むとぷりっぽんっという弾力性が感じられ、小麦の甘みと香ばしさも感じる。それなりに量もあるので、大盛りにしなくとも十分お腹いっぱいになれる。麺とスープのシンフォニックな組み合わせを最後の最後まで楽しむことが出来ます。なるほど、この味であれば上位ランキングに食い込むのも頷ける。ルーキーにして高い完成度を誇る名店がまた新たに誕生にしました。

らぁめん夢ラーメン / 東神奈川駅仲木戸駅反町駅
夜総合点★★★☆☆ 3.8
昼総合点★★★☆☆ 3.8