2015年2月27日金曜日

ら~めん 煙


横浜在住 都内勤務の僕にしてみりゃ福生は完全アウェーな土地。しかしながら仕事の都合で各方面に出かけることもある。所用を終えてから駅近くのラーメン屋を探し、裏路地に佇むこのお店を見つけました。店名に「煙」とあるのは鶏がらや豚骨がらをいったん燻製にしてから、ダシを取っているからだそうです。この過程によってスープに独特のスモークな香りが備わるらしい。メニューも「しろいぶし」と「くろいぶし」の2種類が用意されている。前者は白醤油、後者はたまり醤油をメインのかえしに使っているとのこと。白醤油とは聞き慣れない素材ですが、小麦を原料に使った琥珀色の淡白な醤油だそうです。


「しろいぶし」を注文したところ、でろんとした大ぶりな豚バラチャーシューとメンマが添えられた美しい一杯が着丼。豚骨スープを彷彿とさせる淡い白スープには背脂がほんのりと浮いており、ところどころに赤い唐辛子や青ネギが散りばめられているのが食欲をそそる。濃厚な豚骨スープを想像して啜ったせいで、思いの外あっさりした味が意外に感じる。スモーキーな香りが仄かに立ちこめ、動物系ダシがらの持つ甘みが十分に出ており、白醤油の優しい味が全体をうまくまとめています。唐辛子や胡椒を始めとする様々な香辛料がところどころをぴりっと引き締めているのも好感。チャーシューは見た目を裏切らない、とろとろじわっとした香ばしさと柔らかさでした。


麺は極細ストレートで、長浜豚骨ラーメンとの共通性を感じる。ざっくりした固めの食感で、小麦の香ばしさを楽しむことが出来ます。ボリュームがやや少なめだったので、替え玉をバリカタでお願いした…が、これは失敗した。元々は固めで茹で上げられた麺だったので、バリカタ指定するとモソモソ感が極まりない茹で上がり方になっていた。後悔しながら後半の麺を食べたが、そもそもこのラーメンは何味というべきなのか?豚骨?塩味?白醤油味?そのどれでもなく、どれにでも属する味であった。

ら~めん 煙ラーメン / 福生駅東福生駅
夜総合点★★★☆☆ 3.0
昼総合点★★★☆☆ 3.0

2015年2月24日火曜日

Trick : Kele



UKロックの耽美な流れを受け継いだ、信頼に値するバンド Bloc Party。そのバンドの最重要人物にして、真のセクシャリティを表現しているのが Kele Okereke だ。そんな彼が4年ぶりにリリースした 2nd ソロアルバムが相当いい。まずは開き直りっぷり全開なジャケットがいい。このジャケットに惑わされがちなんだけど、元々はクラブミュージック志向を持っていたことにハタと気づく。そう言えば 1st ソロアルバムのレビューで「クラブミュージック完全体」と書いていたっけ。

まず一聴して驚いたんだけど、ダークネスな香りがてんこ盛り。違う CD かけてる?と勘繰ったほど、クラブミュージックへのフルコミットを果たしている。特にディープハウスやダブステップへの傾倒っぷりが半端なく、漆黒の闇から重たい音像を浮かび上がらせることに成功している。グラスゴーの女性シンガーである Yasmin を起用することにより、Kele の艶っぽいボーカルに華を添えているところも重要。聴き始めた当初は重たい雰囲気にのまれていたんだけど、Keleの作るメロディに仕込まれたメランコリーに救済される。バンドマンとしての出自ゆえにクラブミュージック愛好家から注目されることもないだろうし、メディアが大々的に取り上げることもないだろうし、派手なチャートアクションを見せることもないだろうこの作品。だからと言ってスルーするには勿体ないぐらいの仕上がりっぷりで、僕は全面的に支持します。



2015年2月21日土曜日

Hi Scores EP : Boards Of Canada



これまで再発しては廃盤を繰り返してきた Boards of Canada の初期名作EP「Hi Scores」。オリジナルの DAT 音源が2014年リマスターを施されて装い新たにリイシューされました。オリジナルは1996年リリースであることから、今の耳で聴くと若干の古臭さというかチープさを感じますが、それがまたオールドスクール風情を醸し出して上等な出来になっています。彼らがかねてから持っているサイケデリアは百花繚乱、靄の向こうから揺蕩うように聴こえる電子音はこの頃から引き継がれています。しかもエレクトロニカというタームが産声を上げる前から彼らはエレクトロニカであったことを再認識。まとわりつくようなアンビエンスムードの根っこには紛れもなくヒップホップな図太さが。当時の言葉で言えばアブストラクトヒップホップとなるんでしょうね。夜明け直後の静かな水面を漕ぎ進む船のようです。そう言えば思い出した。昔バンクーバーに行った時のこと、早朝の船に乗って鮭を釣りに行ったのです。静かなバンクーバー湾から見上げる山々は紛れもなく美しかった。そんな感じの作品です。

2015年2月18日水曜日

Baby Wants To Ride : Underworld vs Heller & Farley


Baby Wants To Ride : Underworld vs Heller & Farley


1年前の2014年3月に59歳という若さで亡くなった、シカゴ・ハウスのオリジネーターであるフランキー・ナックルズ。偉大なる彼の功績を称えるべく、UKの名門レーベル Junior Boy's Own から Underworld と Heller & Farley  がトリビュートEPをリリースしました。彼らがデジタルおよびヴァイナルでリリースするのは87年作品のシカゴクラシックである「Baby Wants To Ride」のカバー。本作の収益金は、俺たちの兄貴なエルトン・ジョンが立ち上げたエイズ基金の一部である、フランキー・ナックルズ基金に寄付されるとのこと。あ、ちなみに僕はストレートです(笑)。

黒光りする汗とエロスとグルーヴがオリジナルから滴り落ちているに対し、本カバーはクールな質感と時代感を伴わせています。共通しているのは、暗闇でうごめく男どもの享楽的アトモスフィア。時代や国が変わろうとも、差別への反抗のために快楽を追求する男気は決して変わることはない。ブラック・マシン・ミュージックとはそもそも何なのかを振り返させる好カバーです。



2015年2月15日日曜日

Chandelier : Sia



2015年グラミー賞で、Siaというミュージシャンの存在を遅ればせながら知りました。「Chandelier」という曲のPV2014年上半期の話題をかっさらっていたようです。「美しすぎるダンス」とか陳腐な褒め方をされてたんだけど、PVを無音で見たところ…音楽が鳴っていないにもかかわらず途方も無い迫力が伝わってきた。11歳の女の子がブルータルに踊り狂う姿に呆気にとられる。ぜんまいが壊れた人形のようにとち狂って踊っている。その後に音とともに再視聴するが、曲とのシンクロ率に再び圧倒された。ここまで無邪気さと狂気を兼ね備えた踊りはそう見れるもんじゃない。11歳の彼女しか持ち得ない、瞬間的な閃光を切り取った映像だ。

彼女はこの先、超一流ダンサーとしてのキャリアを積んでいくんだろう。でもこのPVで魅せた無垢な動きは次第に消えていき、より成熟さのあるダンスを披露していくに違いない。このダンスが見れるのは今この時点だけ。その意味では人生の残酷さを充分に物語っているPVだろう。

2015年2月12日木曜日

綱哲


綱島駅前にはラーメン店が多い。3つのポイントが駅を取り囲むかのように結界を作っている。1点目は「麺屋 ばばん」、2点目は「綱島商店」であり、ここでいう3点目とは「綱哲」である。この3点のピラミッドパワーにより、綱島駅がこの界隈でも最強のラーメン激戦区となるべく磁場を形成しているのだ。駅を守護している砦のようにも見える店構えの「綱哲」、勘のいい方ならお分かりだろうが「東京のラーメンを牽引する一杯」を提供する「つけめんTETSU」グループがプロデュースしている。


黒煮干し中華そばとつけめんを食わせてくれるとのことで、まずは基本形の中華そばを注文することにする。ランチタイムの11:00~16:00は大盛り無料とのことなので、700円でコストパフォーマンスの良い麺を思う存分楽しめること請け合いだ。入店するとお一人様女性客が多いことに気付くが、前述のピラミッドパワーがラーメン店の高い敷居をがくんと下げているに違いない。



ほどなくしてどす黒いスープが満たされた中華そばが着丼した。同グループがプロデュースしている五反田の名店「きみはん」を踏襲したかのような煮干くて濃コクな醤油スープだが、背脂がたっぷり浮いているのが特徴だ。この黒さはイカ墨により生成されているそうで、ただ単にニボニボしているのではなく、イカ墨によるコクと背脂による丸みが濃厚煮干し味をサポートし、新たな次元の醤油スープを演出している。このスープをちょっと啜っただけで、東京ラーメンを牽引すると豪語するのは伊達ではない、と唸りまくってしまう。しっとりした脂身を持つ豚バラはよく煮込まれており、全体に申し分ないアクセントを添えている。他に使われている具材はこりこりしたメンマに、上品な海苔にナルト。どれも品質が高い。


麺をリフトアップすると乱れ平打ち縮れ麺が登場。表面はプルプルしており、噛みしめるとピロピロしたコシがあり、白河中華そばとの共通性も感じる。スープとも高次元で調和しており、ラーメンを食す快楽とは何かを教えてくれる。既視感があるシンプルなラーメンのようにも思えるが、随所に新しい感覚が仕掛けられており、洗練された上品さの中にも野性的な感覚も発見できる。気がつけばズバズバ麺を平らげて、丼の底が見えるまで汁完だ。「つけめんTETSU」グループが綱島にこのような仕掛けを仕込んだということは、ここが約束の地として限りない潜在力を秘めていることに他ならない。

住所:神奈川県横浜市港北区綱島西1-1-2
綱哲つけ麺 / 綱島駅
夜総合点★★★☆☆ 3.9
昼総合点★★★☆☆ 3.9

2015年2月9日月曜日

Monuments to An Elegy : The Smashing Pumpkins





The Smashing Pumpkins が昨年暮れに2年ぶりの新作をリリースしました。本作は今後リリース予定の「Day for Night」というアルバムとの連作になるそうです。そもそも2010年に始まった「Teargarden by Kaleidyscope」プロジェクトはどうなった?あれって定期的にEPをリリースして、最終的にはボックスセットとして仕上げる話だったのに道半ばでは?と思って調べたら驚愕の事実が発覚。前作「Oceania」(過去レビュー)がこのプロジェクトに組み込まれており、今回の「Monuments to an Elegy」と「Day for Night」で完結するとのこと…。何だか話が変わってきてるんだけど、これはもうバンド自体が迷走しているのを指し示しているのでは?迷走しているのは今に始まったことじゃないんだけど。


メンバーも相当変遷を遂げています。鳴り物入りで加入した、「Siamese Dream」(過去レビュー)のジャケットを飾った女性ベーシスト Nicole Fiorentino はもういない。ドラムの Mike Byrne もいない。メンバーは Billy Corgan とギターの Jeff Schroeder だけ。本作に参加したドラマーは元モトリー・クルーの Tommy Lee。スマパン = Billy Corgan という図式は知っていたけど、ここまでコロコロと変わるとはなぁ。しかもザ・80年代的大味バンドのメンバーをサポートに迎えるとは実に複雑な気持ち。

そんな状況下で全く期待していなかったんだけど(前作でも同じようなこと書いてた)、内容的には悪くない。いや、これまでのメランコリー度が炸裂していてなかなかいい。なにぶん収録時間が30分強にまとめらており聴きやすい。しかもポップネス全面開花で、誰が聴いても親しみやすい。これまで導入したこともないような打ち込みやシンセも鳴らしており、老獪で重たいドラミングも十分にマッチしている。ああ、やっぱりスマパンってビリーが持っているメランコリーが全てなんだな、どんなにメンバーが変わろうとも。「次のアルバムで本当に最後」とか言ってるらしいけど、そんな区切りはもう止めて、ソロプロジェクトとしていつまでも続けたらどうなんだろうか。

2015年2月6日金曜日

らうめん さぶ郎


マッカーサー通りという計画線で知られた、虎ノ門~新橋間に2014年開通した環状2号線(通称:新虎通り)。オリンピックを見据えて、シャンゼリゼ通りのようなオープンカフェが立ち並ぶ通りにしたいという行政の思惑があるようです。その通りが汐留に突入した辺りはイタリア街と呼ばれ、確かにイタリア風の建物が並んでいる。アメリカ(マッカーサー)なのか、フランス(シャンゼリゼ通り)なのか、イタリアなのか…何が何だかわからない場所に二郎インスパイア系「らうめん さぶ朗」があります。この謎めいた異邦地区にうってつけの存在ではありませんか。ちなみに町田にあるインスパイア系「郎郎郎(さぶろう)」(過去の記事)とは縁もゆかりもないようですが、「ラーメン大 五反田店」(過去の記事)の場所にも店を構えていたようです。


入り口付近にある食券機で「正油ラーメン 豚2枚」を注文しますが、味噌味や塩味といったレパートリーも揃えられている。着席してから無料トッピングをお願いしますが、通常の作法とはやや異なり、麺の固さや刻み玉ねぎ投入を指定できます。僕は「麺ふつう/脂多め/野菜多め/刻み玉ねぎなし」でお願いしました。二郎系と切っても切り離せないニンニクは、卓上クラッシャーでセルフ投入する仕組み。ちなみにこの汐留界隈は高層ビルが立ち並ぶビジネス街のため、昼時になるとサラリーマンで混み合うそうですが、僕は開店したてに入ったので難なく着席。


やがて周囲の高層ビルに勝るとも劣らないスカイスクレイパーな一杯が着丼。その屋根には真っ白な雪…ではなくアブラが降り積もっていた。「二郎を眠らせ、二郎の屋根に雪降り積む さぶ朗を眠らせ、さぶ朗の屋根にアブラ降り積む」と心の中でポエムを唱えながら、スープをアブラに振り掛ける。ただでさえスープに背脂が十分に溶け込んでいるんだが、そいつをアブラに振り掛けることで創出される二重効果により、背脂が持つ甘みが最大限に引き出される。その甘みが通常の甘辛さになっているカエシをマイルドなものに変えており、口当たりはなかなか良い。さらに攻撃度を高めるためにクラッシャー粉砕したニンニクを投入するが、仕事中の人は注意が必要だ。バラ肉が使われたブタも脂身が多く、十分煮込まれているのでほろりと柔らかい。惜しむらくは薄く切られているので豚ボリューム追求派には物足りなさを感じるところ。


適度に茹で上げられた重量級ヤサイ(キャベツも適度に入っている)を減らして天地返しするが、この時点で腹八分目になっていくのを感じる。ヤサイだけでなく麺もなかなかの物量で、いい具合に縮れている中太麺が心理的プレッシャーをかけてくる。つるつるした表面ながら、噛みしめるとごわっとしており、更に噛みしめるとしこしこした食感。目を閉じると地平線まで続く小麦畑を、爽やかな風が吹き抜けていくかのよう…ではない。勿論そんな余裕もなく、圧倒的なスピードで拡張される胃袋をなだめるのに必死だ。食うか食われるか、ぎりぎりのせめぎ合いでどうにか麺を完食することが出来た。ここまで膨満感に浸れるのは、どうやらアブラの量が並以上のレベルだからだろう。そういう意味では、背脂ちゃっちゃ系の支持層にも十分訴求できる味だ。

住所:東京都港区東新橋2-6-5
らうめん さぶ郎ラーメン / 汐留駅新橋駅御成門駅
夜総合点★★★☆☆ 3.8
昼総合点★★★☆☆ 3.8

2015年2月3日火曜日

Tomorrow's Modern Boxes : Thom Yorke



Radiohead のフロントマン Thom Yorke が昨年9月に突如としてリリースした 2nd ソロアルバム。「The Eraser」(過去レビュー)以来、実に8年ぶりのソロ名義となり、プロデューサーは切っても切り離せない存在の Nigel Godrich。リリース形態も相変わらず実験的で、BitTorrent という P2P ソフトウェアを通じての配信、もしくはヴァイナルリリースの2通り。過去に Radiohead の「In Rainbows」(過去レビュー)においてユーザが値段を決めるというシステムを導入し、音源販売の在り方に一石を投じましたが、今回は BitTorrent というテクノロジーの可能性を追求しているそうです。

BitTorrent クライアントが多いほどダウンロード速度が速くなるらしいんだけど、一般的なユーザにしてみたら iTunes などの大手配信サイトから購入するのが楽っつちゃあ楽。どうやらサーバ側の負担軽減が目的のテクノロジーらしく、配信側の目線に立った試みと言えるでしょう。サーバへの投資が抑止されれば、浮いた金がアーティストや価格により還元される、という仕組みです。

さて、内容はと言えば「The Eraser」のような脳へ直接作用する完成度の高いエレクトロニカとは異なり、Atoms For Peace の「AMOK」(過去レビュー)のような肉感的エレクトロニカとも違う。静謐で情感あふれる世界は変わらずなんだけど、音作りに安穏とした雰囲気を感じる。これは宅録感のあるシンプルな質感によるものなんだろう。幽玄としたアンビエンスと簡素でミニマルな作りに緊張度合いは感じられず、逆に解放感すら覚えてしまうのです。