2015年10月31日土曜日

Live At The Royal Albert Hall : Adele

Adeleが新譜を出すのを記念して。



「21」(過去レビュー)が空前のセールスを記録した後、2011年9月22日に英国ロイヤル・アルバート・ホールで行われたライブを収録した音源。CD+DVDとなっていますが、ここでは映像の方を是非観てほしい。Adeleが震わせる会場の空気と、それに共鳴するオーディエンスの感動がしっかりと伝わってくるから。収録曲は自身のオリジナルに加えて、米カントリーバンド The SteelDrivers や The Cure 、Bonnie Raitt、Bob Dylan のカバー。どれも自分のモノにして歌い上げています。

「21」の歌声があまりにも深くてスモーキーなので「オートチューンでも使っているんじゃないか?」という疑念もちらりと頭をかすめたけど、この映像を観て確信。もはや「歌が上手」と褒めるのが陳腐なほどで、彼女の歌声はある種の楽器と言ってもいいぐらい。控え目ながら彼女をしっかりと支えるネイキッドでタイトな演奏、シンプルで厳かなステージと会場、オーディエンスの反応、カメラワーク……どれをとっても素晴らしい。普通に観てると普通に涙がこぼれてくる、素晴らしいライヴだと思います。

Amazonのレビューでは「MCがやたらと饒舌だがそれがいい」といった類のレビューが多いけど果たしてそうかな?確かに彼女の真の姿を理解するにはいいだろうが、話が長いし、ガハハとおばさんっぽく笑うし、しかも下品だ(第一声が「The Royal Albert "fu*king" Hall !!」)。 ライヴにこなれてないこともあるんだろうけどね。このMCがシンプルになれば、最高の絶品になるライヴ作品だ。

2015年10月28日水曜日

楽麺屋 西門店



遅めの夏季休暇で台湾に行きました。まずは名物の牛肉麺でも食べるか、と台北市 西門をうろついていたところ、お洒落なラーメン店を発見。昼時を外したにも関わらず、何人かが行列を作っていました。さっそく最後尾に接続したところ、15分ほど待ってもらう旨告げられる。否が応でも期待に胸が高まるではありませんか。口内は美味な牛骨エキスを待ちかねる唾液でいっぱいです。




勝手が分からずお店のお奨めを頼んだら、このような巨大なやつが着丼…ちょ、ニンニクと野菜がどっさり搭載されている!しかも牛肉じゃなくて豚肉だぞおい!ブタの風情は小さく角切りになっているが、これは明らかに二郎系じゃないか…。慌ててメニューを見たところ「叉焼 二郎風蒜味 拉麵」と書いてある。台湾に来てまで二郎だなんて、俺はどこまでついてない男なんだ…というのは嘘で、台湾旅行にあたって二郎系があるか念入りに調べたのだ。このお店、台湾でチェーン展開をしているが、二郎系を食わせるのはこの西門店だけ。値段はNT$ 260(約970円)と、台湾にしては破格の値段だ。




実はこのオーダーシートに無料トッピングを記載したのだ。日式にいえば大豚ニンニクヤサイカラメというところだろう。麺量を1.5倍にしているが、台湾の麺は小ぶりなので日本と同等にした。また、台湾料理の味付けは割とさっぱりしているので、味はカラメにした。そもそもラーメンは中華圏から生まれたはずなのに、いまや日式ラーメンが逆輸入されている。しかも二郎系まで…二郎系は日本国民をニンニカー(注:筆者が作った造語。ニンニク中毒者を指す。重度ニンニク中毒者をニンニキストという)にするだけでなく、全世界をニンニクの香りで席巻しようというのか。



ブタは柔らかくて煮込まれており、美味しく味付けされている。ヤサイは通常よりも控えめで、キャベツ比率低めクタ気味だ。オイリーなスープはオリジナルを忠実に再現しており、やや家系寄りのライトスープ。カラメにしてもライトなので、普通にしたらかなり薄味ということだろう。麺もオリジナルをなぞらえて作られているが、ワシワシ感はほとんどない。台湾の麺はどこでもくたくたに茹で上げられているので、日式のカタメを望むのは厳しいだろう。ニンニクはたっぷりと盛られており、実に台湾らしい。異国にしては再現性の高い、ボリュームみなぎる一杯だ。夜市で小ぶりの牛肉麺もいいが、行列店で「二郎風蒜味 拉麵」を食べるのが台北のトレンドということなんだろう。

ホームページ:http://www.rakumenya.com.tw/
楽麺屋 西門店ラーメン / 西門町)
夜総合点★★★☆☆ 3.6
昼総合点★★★☆☆ 3.6

2015年10月25日日曜日

UpRight : DJ Tasaka

先日、ケーブルテレビの人が点検に来ました。部屋のターンテーブルを見るなり「DJやるんですか?ハウスですか?テクノですか?」と話しかけてきた。ミキサーでジャンルを判断したんだと思います。聞くところによるとかつては WOMB で回していたとのこと。

「90年代半ばからヒップホップやダブを回してて、徐々にテクノ/ハウスに変わっていきました」 

「当時はオーガナイザーやったり原宿のレコ屋で働いたりしてました」

「卓球さんと飲みに行ったことあります」

「石井くん(ケンイシイ)とだいぶ前に会ったことあります」

「(この彼の名前は田坂なので)DJ Tasakaとは文字の変換について話したことあります。田阪って変換されちゃうんだよね、とか」

「DJだけじゃ食っていけないんで、2年ほど回してません。今はケーブルテレビで働いています」

 とのこと。

http://amzn.to/1RBSjJN


で、DJ Tasaka です。前作「Soul Clap」(過去レビュー)から6年ぶり。つまり、盟友 Kagami の夭折や東日本大震災を通過したアルバムということで、作品のモードがかなり異なっています。前作がミニマルで黒々とした作風であったのに対して、本作はディスコやヒップホップ、アシッドなど様々なジャンルを横断しており、カラフルで多様な音になっています。敢えて言えば、これまでの作品の中で一番ヒップホップ寄り。

震災後に一般化した様々なデモ。反原発、反レイシズム、反性差別、反安保法案……。こういったデモを通じて知り合ったミュージシャン/アーティストがゲストとして参加していますが、不思議なことに闘争心というか深刻なメッセージは感じない。2011年以降の世間の空気を DJ Tasaka なりのフィルターを通して昇華させているようです。彼ならではのユーモアが随所に散りばめられており、クラブシーンの享楽的な雰囲気が貫かれています。権力に対するカウンターとは何か?をつくづく思い知らされる作品です。

2015年10月22日木曜日

ラーメン豚力


ここ5年ほど前から一般用語として使われだした「女子力」という単語。30歳を過ぎてもなお「女子」と言い続けるのは如何なものか?と書けば凄まじいバッシングを浴びそうだが、ならばジロリアンの偏差値を測るメジャメントはあるのか?それはブタの力、すなわち「豚力」に他ならない。調べてみると有難いことに下井草方面に「ラーメン豚力」という店があった。下井草は筆者にとって完全アウェーな土地だが、遠い場所へ足を運ぶことこそジロリアン偏差値=豚力に違いないのだ。




 もともとは「なか星」という非二郎系のお店だったらしいが、「極めて厳しい立地」とお店側が気付きインスパイア系へとシフトチェンジしたらしい。その功を奏してか、こうやって横浜からジロリアンを呼び寄せているんだから路線変更は成功だったといえる。通常のラーメンの食券を買い、カドを折ることでヤサイの多さを指定する。右上を折れば少なめ、左下を折ればマシ、という具合だ。ここではヤサイマシとニンニクアブラを指定した。低め標高でシャキ感のあるヤサイ(キャベツ比率低め)の上にはコラーゲン質のぷるっぷるアブラがまぶされている。スープに刻みニンニクを溶かしこみ、ヤサイ全体へまんべんなくスープをかけて味わい始める。甘辛くてインスパイア系標準の味といえるものだ。




ヤサイを減らして天地返しをしたところ、ヤサイの下から目を疑うような残念ブタが登場した。柔らかく煮こまれているものの、少量かつぺらっぺらに薄くてあまりにも打撃力が低い。わざわざヤサイの下に隠さなくてもいいんじゃないか?お店のそんな恥じらいを感じながらストレートに近い太麺を喰らったところ、ゴワゴワ剛毛な噛み応えを感じた。表面つるりだがガシガシ硬めで満腹中枢が満たされる。全体ボリュームが控えめだったので、化学調味料のコクと旨味を感じながらごくごくとスープを飲み干した。二郎へのリスペクトはさほど感じられず、止むを得ず二郎系に転向したことを素直に認めたこの一杯。残念ながら店の豚力は低かったが、私の豚力はかなり高いことが分かったのであった。


住所:東京都中野区上鷺宮5-8-8

ラーメン豚力ラーメン / 下井草駅富士見台駅
夜総合点★★★☆☆ 3.5
昼総合点★★★☆☆ 3.5

2015年10月19日月曜日

FREE URSELF : Prince

Tidalから先行リリースされた「Hitnrun Phase One」が無事CDリリースとなったものの、手元にはまだ届いていません。HMVのしたたかな「3枚まとめて買うと35%オフ」戦略に乗っかったためです。未リリース作品と一緒に買うと、それが出るまで届かない。僕の場合、手元に届くのは11/20頃になりそうです。



で、世間(のほんの一部分)は「Hitnrun Phase One」で賑わっているというのに、早くも新シングルがリリースされました。これは「Hitnrun Phase One」には収録されず、TidalおよびiTunesのみのリリースとなっています。3rdeyegirlをフィーチャーしているバンドサウンドで、ぶりぶりしたベースとごついドラムが特徴的。その上を頼りなく漂う、80年代初期みたいにチープなシンセ音がキュート&ラブリー。曲そのものは解放感のあるもので、後半になるとマイナーへ転調してこれまた80年代感覚が抜群です。

2015年10月16日金曜日

ラーメン二郎 小岩店


全店制覇を目論むジロリアンからは「ある意味 難攻不落」と言われる小岩二郎。営業時間が平日日中ゆえ、会社勤めの人は行きづらいからだ。休暇を取ってしまえばいいと言われればそれまでだが、有給休暇を取りづらいのがサラリーマンのど根性。休暇を取得し「労働者に休暇を!有休の取りやすい社会を!」とシュプレヒコールしながら小岩駅から二郎へと向かった。……というのは嘘で、所用で小岩を訪れる機会に恵まれたので、スキップしながら行ったまでだ。




ラーメン小を注文しマシた、いや、しました。二郎のことばかり書いているので、文字変換も二郎対応になってしまったようだ(……というのは嘘です)。無料トッピングはニンニクヤサイアブラで。カウンターに若い女性二人がおしゃべりしながら、ゆっくりとゆっくりと食べている。待っている客もいるので、黙ってさっさと食い終わってほしいところだ。こういうマナーを守らない客をじろりと睨む人をジロリアンという。




ヤサイはキャベツ比率が低く、全体量も控え目ながらクタ加減は絶妙な塩梅。ブタは小ぶりながらも、肉の繊維がホロホロと崩れるほど柔らかく煮こまれている。これは数多の二郎の中でもハイレベルに属するほど神豚だ。麺はデロっていなく、小麦ムギムギ感がが心地よい。スープは表面にびっちりとアブラが張り巡らされ、乳化しておらず醤二郎のキレキレ感がある。ボリューム控えめながらもバランスの整った一杯。エフゼットとニンニクの力は偉大なり。エネルギーを120%充填して会社へ戻った。


住所:東京都江戸川区西小岩3-31-13

ラーメン二郎 小岩店ラーメン / 小岩駅京成小岩駅
昼総合点★★★☆☆ 3.8

2015年10月13日火曜日

プリンス論 : 西寺郷太



プリンスを論じた本や研究本は数多く有れど、それは全て外国人著者によるもの。日本人が書いたプリンス本は存在しなかったんですが、書いたところでどれだけ売れるのか?という懸念があるのも事実。そんな小さなマーケットを相手にした、音楽家であり作家である 西寺郷太 氏と新潮社の聖断には恐れ入る。何よりも帯の背にある

ド助平にして崇高

という、殿下を的確に表した一文がとにかく素晴らしい。そもそもプリンスを論じる本を書くのはいいとしても、長いキャリアと膨大な作品数を誇るアーティストを新書で論じきれるのか?と勘ぐっていました。結論から言えば「心から感動した」。殿下マニアの聖典である「プリンス大百科」などの情報を巧みに引用しつつ、ミュージシャンならではの視点で分析する部分は実に興味深い。

著者と僕はほぼ同年代(僕の方が4歳上)で、「パープルレイン」(過去レビュー)に始まる殿下歴や各作品に対する思い入れもほぼ一致。著者は初めて殿下を目の当たりにした時

めっちゃくちゃ気持ち悪い

と感じたそうだが、思いは完全に一致。気持ち悪いにもかかわらず、何故か「パープルレイン」を買ってしまう。お金のないティーンエイジャーは繰り返し繰り返しその作品を聴く。そしてじわじわと、ショートケーキに乗ったミョウガや納豆の虜になっていったのだ。またファンの間では有名な「We Are The World」への不参加については驚愕の考察を巡らせている。

プリンスは、背が低い

ライオネル・リッチーへのインタビューで得られた証言を元にした推察には衝撃を受けた。そして、これはかなり的を得ていると確信した。詳しいくだりは是非本を読んで欲しい。主だったエピソードはファンの間では周知の事実なので新発見はそれ程なかったが、BPMや曲の収録時間によって作品分析するあたりはさすがミュージシャンだと思う。

84年に「ビートに抱かれて」、86年に「KISS」の両曲を全米No.1に送り込むが、この両方がベースレスという特殊状況を指摘しているのもさすがとしか言いようが無い。また「パレード」(過去レビュー)を「あらゆるジャンルの檻に閉じ込められて苦しんでいた音符やリズムたち(中略)が愛に満ちた口づけを交わしている」という名文には涙が零れそうに。

殿下へのささやかな感謝状、だなんて前書きに書いてあったけど、これはプリンスに宛てた熱烈な公開ラブレターだ。プリンスへの敬意と愛情が全編から迸っている。日本における殿下マニアは長い間虐げられてきたが、同じような原体験と愛情を持っている人も多くいるんだ。これが分かっただけでも本著は一読の価値がある。

2015年10月10日土曜日

いのうえ


川崎市には「尻手」という駅がある。満員電車に痴漢がたくさん乗っていそうな駅だが、そこから横浜市鶴見区内に入ると、大通りからは決して見つけることのできない地味な場所に行列ができている。この店こそ、2014年のオープン以来破竹の快進撃を続けている「いのうえ」だ。いまや横浜の食べログランキングではトップクラス。ラーメン店とは思えない看板だが、どうやら夜は居酒屋としても経営しているとのこと。ちなみに川崎市には「下野毛」という地名もあるので、尻手に加えてそちらも押さえておきたいところだ(何をだ)。




まずは星玉。入り特製ラーメン(850円)が着丼。この他に「油そば風替え玉」(200円)の食券を買っておいた。具材に使われているのは味玉だが、この店では「星玉。」というらしい。店のTwitterアカウントが「豚星。」ツイートをしばしばRTしていることから分かる通り、両店には親交があるようだ。この味玉は「豚星。」譲りのレシピらしい。この星玉。は白身がぷりんっとしており、黄身が芳醇に味付けされているナイスな一品。大ぶりなチャーシューはロールされたバラ肉が2枚。いい塩梅に炙られており、香ばしくてとろりと柔らかくてこちらも申し分なし。極太メンマはこりっとしながらも柔らかくて特徴ある美味しさだ。他には刻み玉ねぎと海苔が添えられている。




灰色スープがこの店のすべてを物語っている。濃厚に立ちこめる煮干しの香りながら、煮干し特有のえぐさはなく、鶏がら/豚骨といった動物系や昆布のだしも効いている味わい深いもの。鶏白湯みたいなポタージュ系のようにクリーミーで、凝縮された旨味とコクが感じられる。低加水の固め茹で上げストレート麺が濃厚スープと絶妙にハーモニーを奏で、清涼感のある刻み玉ねぎが全体を引き締める。スープがやや少なめなのが玉にキズだ。




麺量が少なくなったところで、先ほどの「油そば風替え玉」をお願いした。この替え玉は常に提供されているわけじゃないので要注意。フレーク状のほぐし豚に刻み玉ねぎ、卵の黄身、魚粉が散りばめられて、底にはタレが沈んでいる。こいつをマゼマゼすればまさしく油そばそのもので、この替え玉だけでも完結している旨さ。単体での味わいを堪能してから、残り分をスープへぶち込んでジャンク度合いがアップした一杯を汁完する。うめーっす!高得点なのも頷ける銘店ここにあり。


住所:神奈川県横浜市鶴見区矢向1-7-26

いのうえラーメン / 尻手駅
夜総合点★★★☆☆ 3.7
昼総合点★★★☆☆ 3.7

2015年10月7日水曜日

Music Complete : New Order

「Waiting for the Sirens' Call」(過去レビュー)以来、10年ぶりとなる New Order の新作が届きました。僕はと言えば、お馴染み Peter Saville のジャケットデザインがあしらわれたTシャツ付き限定盤を購入しました。目下ドヤ顔全開でTシャツ着用中(ドヤ)。



まずは、あれからもう10年も経ったのか…と深い感慨に耽り中。振り返ればライヴ活動も行っていたし、ライヴ盤(過去レビュー)や編集盤(過去レビュー)もリリースしていたし、Bad Lieutenant(過去レビュー)としての活動もあったし、彼らにしてはかなり活発に活動してました。そしてバンド最大の事件だったピーター・フック脱退劇…。フッキー不在の New Order は New Order じゃない、という意見もありましたが、ライヴ盤で確認した姿は紛れもなく New Order であり、今ここにあるオリジナル新作は100%ピュアな New Order でした。ジリアン・ギルバートが復帰しているのも嬉しい話。


振り返ってみれば過去2作はバンド顕在化を示すものであり、バンドとしての結束感がアピールされていたように思います。そして今回の作品はバンド史上もっともダンス寄り/エレクトロニクス化された作品。リードトラックは最近の例に倣い、泣きのメロディ/メランコリア炸裂なトラック。なんだよ、いつも通りだな…と思ったらトラック2以降から俄かに流れが変わってきた。


The Chemical Brothers のトム・ローランズがプロデュース参加した「Singularity」と「Unlearn This Hatred」が劇的にかっこいい。彼ら旗印のディスコシーケンスが The Chems 風味を添えて現在の音へと完全アップデート化されており、かつての「Here To Stay」を彷彿とさせる出来で感涙してしまう。やはり The Chems の New Order に対するリスペクト度合いは半端ないことがよく分かります。


The Killers のブランドン・フラワーズや La Roux のエリー・ジャクソンをゲストに迎えて現代シーンに目配せしているのも話題ですが、Iggy Pop にポエトリーリーディングさせているトピックも驚愕。魅惑の低い声を駆使して歌詞を呟くトラック名はその名も「Stray Dog」(笑)。50年近くも前に「I Wanna Be Your Dog」と歌ったパンクゴッドーファーザーは、今もまだ迷える犬だったのか!パンクとポストパンク~ニューウェーヴのミッシングリンクを繋ぐ問題作と言っても過言ではない。


他にも、イタロディスコ進化型「Plastic」、80年代後期のアシッドムーヴメントをファンキーに蘇らせた「People on the High Line」、胸を締め付けるような美しくも儚い哀愁バンドサウンドが聴ける「Academic」や「Nothing but a Fool」など聴きどころ満載、というか捨て曲一切なし!今ここで確信した。フッキーは「俺がいなかったら New Order じゃない」と言い捨てたが、彼らを彼らたらしめる存在はバーニーなんだと。いつまでもヘロヘロで上達することのないボーカルがあってこそ New Order なんだと。


その意味では、オートチューンで声をいじりまくった EDM に対して何の意見もしないながら、ヘロヘロにダンストラックを歌い上げる彼らこそアンチ EDM 最右翼なのだ。移ろいやすくて不安定で、天才的に微妙なズレをし続けるボーカルがあってこそ New Order なのだ。今年の最高傑作レベルにして、彼ら史上でも最高傑作!


 

2015年10月4日日曜日

鶏喰(~TRICK~)


横浜トップクラス、いや神奈川トップクラス。いやいや、2015年ミシュランガイドのビブグルマンにも選ばれたことで、日本トップクラスとも言える「鶏喰(~TRICK~)」に行ってきました。ビブグルマンに選ばれたラーメン店は軒並み上品な醤油味や塩味ゆえ、そもそも日本のラーメン文化は多様なので偏った選定じゃないか?という異論反論もあるようです。ともあれ美味けりゃいいじゃん、ということで横浜市営地下鉄の吉野町に足を運びました。場所は駅からすぐのところ、午後2時頃に行列へ接続したものの20分ほど待たされました。女性おひとり様が多いのもこの店の特徴か。




主軸となる味は醤油と塩の2種類であることが分かります。店名から分かる通り鶏へのこだわりは並々ならぬ思い入れがあるようです。そうであれば、ここは旗艦メニューである特製鶏醤油を頼まぬわけにはいかないじゃないか。1,000円という価格設定はなかなか立派ですが、行列に並んでいる間にお茶をサービスしてくれるのもなかなか立派です。




女性受けしそうな清潔感のある店内に腰を下ろし、物腰が柔らかい店員さんの丁寧な仕事っぷりを眺めていたところ、実に美味しそうで美しい一杯が着丼。鶏もも肉チャーシューが2枚、鶏むね肉チャーシューが3枚、鶏肉団子が2個に味玉。当然ながら素材にはこだわりぬいているようで、味玉は豊潤で甘くてトロリとした黄身がたまらない。もも肉とむね肉は当然ながらそれぞれの食感が異なるものの、しっとりとして奥行きのある味わい。肉団子は軟骨が入っているのでコリッとした食感を楽しむことが出来る。




低加水率の細めストレート麺は表面なめらかでのど越し良好で、噛みしめればプリッとしてポンッと弾けて、丁寧に製麺されているのが良く分かります。特筆すべきはやはり透明感のある鶏がらスープで、醤油味ながらもまろやかで、味に奥行と厚みがあるのは鶏油のせいなのかしら。甘みさえ感じて、多幸感が溢れる至福の瞬間を味わえます。目を閉じながらじんわりと味わい、スープを丁寧に一滴も残さず汁完。店を出て、帰路について、家に帰ってからもその感動は持続していました。やはり日本トップクラスのお店は伊達じゃありません。


住所:神奈川県横浜市南区吉野町4-20

鶏喰ラーメン / 吉野町駅南太田駅黄金町駅
夜総合点★★★☆☆ 3.8
昼総合点★★★☆☆ 3.8

2015年10月1日木曜日

Leaps : Flare


ケンイシイの別名義プロジェクト Flare が「Dots」(過去レビュー)以来2年ぶりに新作をリリースしました。今回はセルフレーベルである 70 Drums のみから、しかも CD だけを専用サイトで通信販売、もしくは自身が出演するイベント会場のみで販売。限定感がぷんぷんするこの売り方、個人的には実に食指が動いてしまいます。しかも制作だけでなく、販売方法からアートディレクションまで全てケンイシイが手掛けるという100%ピュアなインディーズリリースです。

昨今のクラブミュージックシーンの大きな流れになっている EDM に異を唱えるテクノアーティストは多いものの、大手ベンダーによる音源配信や定額配信にまで問題提起するテクノアーティストは多くない。「やりたかったから」や「作りたいものを作って出す」という自身の発言があったけど、逆を言えば EDM というメジャーに対してのカウンターカルチャーとは?昔ながらのインディペンデントな販売方法は生きるのか?というチャレンジな姿勢はあったと思う。

自分が作り上げたい作品は DJ 活動ではなく制作活動で表現する、元々はアーティスト気質な人。それ故にこの作品から聴こえてくるのは DJ プレイが醸し出すアタック感ではなく、「Garden on the Palm」(過去レビュー)の流れを汲むエクスペリメンタルテクノ。ケンイシイが紡ぎだす清涼感のある高音シンセと音の粒子たちが、電子音楽を聴くことの快楽を伝えてくれます。メジャーデビューした直後、彼の音楽と映像がアパレル店で氾濫していたのを思い出す…。それは視覚のみならず、全ての五感を呼び覚ますような生命的な音でした。それからの流れは明らかに同質で、ここでもケンイシイの変わらない息遣いが感じ取れます。