2015年10月13日火曜日

プリンス論 : 西寺郷太



プリンスを論じた本や研究本は数多く有れど、それは全て外国人著者によるもの。日本人が書いたプリンス本は存在しなかったんですが、書いたところでどれだけ売れるのか?という懸念があるのも事実。そんな小さなマーケットを相手にした、音楽家であり作家である 西寺郷太 氏と新潮社の聖断には恐れ入る。何よりも帯の背にある

ド助平にして崇高

という、殿下を的確に表した一文がとにかく素晴らしい。そもそもプリンスを論じる本を書くのはいいとしても、長いキャリアと膨大な作品数を誇るアーティストを新書で論じきれるのか?と勘ぐっていました。結論から言えば「心から感動した」。殿下マニアの聖典である「プリンス大百科」などの情報を巧みに引用しつつ、ミュージシャンならではの視点で分析する部分は実に興味深い。

著者と僕はほぼ同年代(僕の方が4歳上)で、「パープルレイン」(過去レビュー)に始まる殿下歴や各作品に対する思い入れもほぼ一致。著者は初めて殿下を目の当たりにした時

めっちゃくちゃ気持ち悪い

と感じたそうだが、思いは完全に一致。気持ち悪いにもかかわらず、何故か「パープルレイン」を買ってしまう。お金のないティーンエイジャーは繰り返し繰り返しその作品を聴く。そしてじわじわと、ショートケーキに乗ったミョウガや納豆の虜になっていったのだ。またファンの間では有名な「We Are The World」への不参加については驚愕の考察を巡らせている。

プリンスは、背が低い

ライオネル・リッチーへのインタビューで得られた証言を元にした推察には衝撃を受けた。そして、これはかなり的を得ていると確信した。詳しいくだりは是非本を読んで欲しい。主だったエピソードはファンの間では周知の事実なので新発見はそれ程なかったが、BPMや曲の収録時間によって作品分析するあたりはさすがミュージシャンだと思う。

84年に「ビートに抱かれて」、86年に「KISS」の両曲を全米No.1に送り込むが、この両方がベースレスという特殊状況を指摘しているのもさすがとしか言いようが無い。また「パレード」(過去レビュー)を「あらゆるジャンルの檻に閉じ込められて苦しんでいた音符やリズムたち(中略)が愛に満ちた口づけを交わしている」という名文には涙が零れそうに。

殿下へのささやかな感謝状、だなんて前書きに書いてあったけど、これはプリンスに宛てた熱烈な公開ラブレターだ。プリンスへの敬意と愛情が全編から迸っている。日本における殿下マニアは長い間虐げられてきたが、同じような原体験と愛情を持っている人も多くいるんだ。これが分かっただけでも本著は一読の価値がある。

0 件のコメント:

コメントを投稿