2016年12月27日火曜日

AIM : M.I.A.



今年9月にリリースされたM.I.A.の5枚目のアルバム。本人曰く「最後のアルバムになる」ということだが、音楽活動は継続していくらしい。「アルバム」という枠に囚われず活動していくということであれば一安心ですが、ここでもアルバムというフォーマットが失われていくのに一抹の寂しさを覚える。ちなみにの話。先鋭的な政治アティチュードと、父親がテロ組織『タミル・イーラム解放の虎』メンバーで現在は戦闘中行方不明(Missing In Action = M.I.A.)という出自から、ここ最近は米国当局からも徹底的にマークされていた模様。

Skrillex、Diplo、ZAYNといったEDM/エレクトロ勢をコラボレーターに迎えているが、内容的にはこれまでの作品と比べてやや内省的なものを感じる。それはかつて自身が難民だったことと、現在のシリア難民問題がリンクすることにより、自己の内部へ向かった結果らしい。加えて、母親になったことも作用しているようだ。が、完成度は極めて高く、これまで培ってきたバングラビート〜ダンスホールの中毒性が効いている。

2016年12月22日木曜日

麺屋 登夢道 茅ヶ崎本店



湘南といえば「ラーメン二郎 湘南藤沢店」があり、茅ヶ崎では二郎インスパイア系の雄「菜良」が制している地域だが、昨今はやにわに混戦状態を呈している模様。というのも「麺屋 登夢道 茅ヶ崎本店」というお店が2014年に殴り込みをかけてきたからだ。他には平塚に「豚んち」という二郎系があるが次回の課題とし、まずは「登夢道」を訪問してきた。この界隈は住宅街ということもあって家族連れが非常に多かった。メニューは大別して味玉つき醤油味(登夢道めん)/みそ味/辛みそ味の3通りあったので醤油味を。麺量は大:1.5玉、中:1玉、小:半玉ということなので中をお願いした。730円也。




着席とともに無料トッピングを尋ねられたので「ニンニクヤサイ」をお願いしたところ、なかなか見目麗しい外観を誇る一杯が着丼。ロールしたブタはふわとして柔らかくてドリミーにとろけるが、もう少し肉々しいノックアウト感が欲しかったところ。ヤサイはクタ気味に茹でられたモヤシ中心だ。ニンニクは刻まれているというより、すりおろされたようなのでもう少し荒い粒度でも良かったと思う。



スープは「鶏ガラ豚骨系」を謳っている通り、ジャンク加減控えめのあっさりしたもの。麺は一般的な二郎系とは異なり、多加水でつるもちで柔らかくボリュームもそれほどではない。麺とスープの組み合わせが明らかに通常と一線を画しており、凪いでいる湘南の海のようにマイルドな味わいだ。…つまり悪く言えば「普通のラーメン」なのだ。総じて破壊力低めのファミリー向けで、それ故に二郎系の裾野を広げているのは確か。二郎系が一般的になっていくのは喜ばしいことだが、普通の人に訴求する二郎系は二郎系たり得るのか?という疑問が残ったのも事実だ。

住所:神奈川県茅ヶ崎市赤羽根95-2

麺屋 登夢道 茅ヶ崎本店ラーメン / 北茅ケ崎駅香川駅
夜総合点★★★☆☆ 3.1
昼総合点★★★☆☆ 3.1

2016年12月17日土曜日

Cheetah EP : Aphex Twin



Syro」以降に活動活発化している Richard D. James が突如としてリリースした最新作。80年代風の爽やかなジャケットを手がけるはデザイナーズ・リパブリック。

元々は Soundcloud 上での Richard の匿名アカウントが一部公開していた作品で、タイトルは英国のシンセサイザーメーカーである「Cheetah Marketing」に因んでいる模様。このメーカーが製造したアナログでヴィンテージなモジュール「MS800」を駆使しているそうなんですが、当方シンセサイザーに詳しいわけでもないので他作品との音色の違いはあまり分からず。そもそも虚言癖のある Richard のことなので、その情報が本当なのかすら不明。

確かなのは、復活以降の作品にも言えることなんだけど、音色がクリアかつ音圧が適切だということ。これは物凄く重要なことで、音の選び方が丁寧かつ無駄がないことがよく分かる。研ぎ澄まされているからこそ、作り手の意志・意図がダイレクトに伝わってくる。僕自身ここ最近はテクノ(特にIDM)へ真摯に向き合っているわけじゃないので、最新動向すら分からない状態なんだけど、一昔前に比べてシーンが一巡して落ち着いているように思う。本作はそんな停滞感のある IDM 市場に改めて喝を入れている。クリアに音が響き渡るからこそ中毒性が高く、脳内の隅々をクリアにする作用満点。ジャケットのように清涼感とユーモアが溢れ、下にある PV のように無邪気でありながら毒も持つ。本作によって IDM シーンがかつてのように活性化していくといいですね。

2016年12月14日水曜日

4EVER : Prince


4EVER : Prince


墓場荒らしビジネスに加担する気はさらさら無いんですが、殿下死後にリリースされたベスト盤を買わずにはいられない。ジャケットの美しさもさることながら、ブートレグ市場では有名だった未発表曲「Moonbeam Levels」が収録されているから。僕はブートレグに手を出さない主義なので、これは初めて耳にする曲。プリンス論で 西寺郷太 氏がプリンスの存在を「ショートケーキの上に納豆やミョウガをかけられた感覚」と書いたが、ご多分に漏れずこの曲も同じ感覚を兼ね備えている。 

「Moonbeam Levels」は1999レコーディングセッション時に収録された、ブレイク直前の変態エナジーが漲っている佳曲。いわば「Take Me With U」のようにラブリーでありながら捉えどころのない、殿下にしか作り得ないショートケーキ/茗荷ソングだ。

他に収録されている曲は「The Hits/The B-Sides」と大して変わらないけど、ワーナーと和解しているにも関わらず93年作品「Love Symbol」以降の曲が含まれていないのは理解に苦しむ。権利関係で未解決なところが残っているんだろうけど、これでは世間から「92〜93年頃にキャリアが終わった人」と思われてしまうじゃないか。殿下の闘争はこれ以降に先鋭化していったというのに。なお、音圧は従来のものよりも高くなっており、全体的なバランスが取れたものになっているのを申し添えておく。

2016年12月10日土曜日

「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック


「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック

この映画(過去の記事)を見終わって、腰が抜けるほどの衝撃と温もりを味わい、同じ週にもう一度観に行ってしまいました。映画をリピート鑑賞したのは人生2回目だと思う。広島弁は理解できないところがあったので、2回目は「日本語字幕版」を。2回目なんだから泣くわけないもんねっ、と舐めてかかっていましたが、オープニング曲「悲しくてやりきれない」が流れた瞬間に目から大量の水が(あちゃあ)。おいおい何だよ、映画に対する免疫ができているどころか、泣くという刷り込みができているじゃないか。それほどまでにコトリンゴの音楽は大きな役割を果たしているのです。

観終わってさっそくサントラを購入。まずジャケットが素晴らしくて涙(宝物にしたくなるレベル)。何度も何度も聴き返して、映画のシーンを思い出して号泣。何だろうねこれ、泣けるシーンはそれほどないのに泣いてしまう。ドリフ大爆笑のテーマで泣くなんて…くっ…(いや実は戦時歌謡曲の「隣組」)。終盤で流れる「みぎてのうた」、エンドロールで流れる「たんぽぽ」を聴いても涙腺決壊、困ったねぇ。すずさんは今どこで何をしているんじゃろうか。クラウドファンディングに参加した皆さんを紹介した後の、一番最後の最後が忘れられないねぇ。

2016年12月6日火曜日

麺や でこ


前の記事で「発展著しい武蔵小杉・新丸子エリアがラーメン激戦区となり」と書きましたが、シン・ゴジラが由比ヶ浜から再上陸して武蔵小杉のタワーマンション界隈に到達したのは有名な話。更には丸子橋まで投げ飛ばしてしまって、新丸子周辺は大丈夫なのかしら?と思ってましたが、前から注目していた「麺や でこ」は被害を免れた模様。らーめん/つけそば/まぜそばの3種を揃え、らーめんは醤油/塩/味噌の360度外交を繰り広げています。取り敢えずはフラッグシップメニューであろう特製醤油そばを注文します。1080円というなかなかいいお値段です。



ぱっと見ただけでもその味わいが鼻孔をくすぐる淡麗醤油系が着丼しました。薄く切られた豚ロースチャーシュー3枚と鶏胸肉チャーシュー3枚は期待を裏切らない。しっとりした味わい深さが食欲を増進させます。写真では見えませんが長い穂先メンマは実に柔らかく、味付け玉子は黄身が甘くて上質素材を使っているのがよく分かる。他に使われている具材は刻みネギや海苔など。




シルキーかつスムースな醤油スープは、淡麗ながらも丸みを帯びて奥深い。複数の醤油を使っているであろう複雑系カエシが、鶏ガラのコクと優雅なハーモニーを奏でているではないか。表面ツルリとした多加水ストレート細麺を持ち上げれば、上品でマイルドなスープがまとわりつき、口腔内に小麦の香りがそよいでくる。懐かしくもあり新しくもある、子供の頃に食べた昔々のラーメンに終わらない新次元感覚。これは深い、深いよ!常日頃ジャンクな麺ばかり食べていると味覚が麻痺するので、こういった麺を食べて味覚再確認するのがヨシ。神奈川淡麗系に終わりはないのを確認した。


住所:神奈川県川崎市中原区小杉町1-520-6

ホームページ:http://my-deco1.com/
麺や でこラーメン / 新丸子駅武蔵小杉駅
夜総合点★★★☆☆ 3.8
昼総合点★★★☆☆ 3.8

2016年11月29日火曜日

For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder ? : The Pop Group



The Pop Group の新作がリリースされたので、80年にリリースされた不朽の名作誉れ高い本作を聴き返した。ちなみに僕が持っているのは2016年2月にリマスターリリースされたもので、それまでは永らく廃盤状態にあった作品です。オリジナルに収録された The Last Poets 参加トラック「One Out of Many」の権利関係で揉めていたらしいんですが、そのトラックを削除して「We Are All Prostitutes」が代わりに収録されています。元々は先行シングルとしてリリースされていた「We Are All Prostitutes」を収録することで、本来あるべき姿になったということですが、まあ細かいことは気にしないで欲しい。

デビューアルバムだった「最後の警告」がブリストルサウンドの原点を感じさせるダブ的作品だったのに対し、本作は不協和音によるアジテーションミュージックになっている。ファンクやフリージャズ、ノイズミュージックといった要素を注入したパンクなんですが、不条理に対する怒りや苛立ちがびしびしと伝わってくる。マーク・スチュワートのボーカルを聴いた当時の人は腰抜かしただろうなぁ、と思えるような絶叫と扇情にまみれています。メロディらしきものは在って無いようなもので、ジプシーの子供たちがキスをする象徴的なジャケットからは程遠い世界を作っています。これを聴くとピストルズですら甘く聴こえる、本気で戦っている音楽。

2016年11月25日金曜日

ぶたやま


発展著しい武蔵小杉・新丸子エリアがラーメン激戦区となり、その波が武蔵中原〜武蔵新城にまで及んでいる。新城といえば二郎インスパイア系「107」の牙城であったが、非常にわかりやすい屋号で殴り込んできた店が2016/11/11にオープン。その名は「ぶたやま」。通常だと730円のラーメンが、開店サービスとして500円で提供されていたので早速足を運ぶ(11/18でサービス終了)。ご覧の通り行列ができていたが、中には二郎系を知らないであろう地元のおばちゃん達も。おいおい大丈夫なのかい?
 




食券を渡すと同時に無料トッピングを聞かれたので「ニンニクヤサイアブラ」をお願いした。するとブタがヤサイの山を支える、店の名前に恥じない一杯が着丼した。ヤサイ山の頂にはふわふわしたアブラが積もっており、麓を流れるスープを振りかけて溶かし込む。ヤサイはキャベツ比率が低めだが、野菜高騰のご時勢なのでやむ無しと言ったところ。標準的な茹で具合のヤサイを順調に減らしていく。




ほぼほぼヤサイを減らしたところ、くるりとローリングしたブタが2枚現れた。ふわりとした柔らかさで好感が持てる美味しさだ。スープの上澄みには透明な油膜が張られ、甘辛く味付けされた醤油味がきりりと立った非乳化なもの。麺を引きずり出すと、捻れた太めゴワ麺が表出した。ガチリとしたグルーヴィな噛みごたえでG感覚も十分だ。厨房に目をやると菅野製麺所の文字が見えたので、自家製ではなくアウトソースしていることを確認。このあたりに老獪な戦略が感じられる。総じてバランスがよろしく、オープン直後なのに完成度が極めて高い。また再訪したくなる味の良さだが、もはや街を歩けば二郎系に当たる時代になったことに驚いてしまう。

ホームページ:http://butayama.com/
ぶたやまラーメン / 武蔵新城駅
夜総合点★★★☆☆ 3.7
昼総合点★★★☆☆ 3.7

2016年11月21日月曜日

この世界の片隅に


この世界の片隅に

能年玲奈 改め のん が完全復活の狼煙を上げた本作を観てきました。独立に伴うごたごたで、表舞台からしばらく遠ざかっていたのをヤキモキして見ていましたが…やはり凄いね、のんさん。天賦の才があるとしか思えん。あまちゃんでは天野アキを演じるために生まれてきたんじゃないの?と思ってましたが、本作のすずさんでも同じことを思う。すずさんを演じれるのはのんさんしかいない。圧倒的な存在感を放っていた、のんにしか放てない輝きがあった。

戦時下の広島・呉を舞台にしたこの映画、非日常な時代でのささやかな日常が描かれていますが、ふんわりした色彩とタッチ、独特のペーソスを持った演出が実に心地いい。淡々と物語は進み、大切なものを失いながらも暦は昭和20年8月へとめくられていく。「あまちゃん」では3/11に向かって話が進んでいったけど、この話では8/6に向かって話が進んでいく。日本人が知っているその日へ、日常は進んでいく。

戦争が終わっても、淡々と日常は進んでいく。草花、虫、景色や食べ物が柔らかく描かれているからこそ、戦争の残酷さが際立ってくる。一秒一秒すべての瞬間が愛おしくて抱きしめたくなる。お涙頂戴な話じゃないんだけど、周りの人はみんな(僕も)ぽろぽろ泣いていたよ。観終わってから大慌てで原作を読んだけど、オリジナルに忠実なばかりか、世界観をさらに拡張している見事さに気づきました。この間の記事で「間違いなく今年最高の映画」と書いたけど、ごめんこっちの方が最高でした。

2016年11月17日木曜日

You Find The Key : 田中フミヤ


You Find The Key : 田中フミヤ


Unknown 3」以来8年ぶりとなる田中フミヤの新作アルバム。今回のリリースは名門 Perlon から。ベルリンに拠点を移して継続的に DJ 活動を行っており、またヴァイナルでの EP も散発的にドロップしていることからも、アルバムリリースが8年ぶりだったという事実に少々驚く。


このアルバムで鳴らされているのは Ricardo Villalobos の影響を多分に受けたオーガニック感覚に溢れたミニマルの極北。テクノというタームさえ似合わない有機的な香りが漂っている。粘着的でパーカッシヴな音と奇妙なヴォイスサンプルが混ざり合い、丸みのあるプロダクションによってストイックな音響空間が構築されている。


泥の香りがしながらも、なおかつハウスの残り香がかすかに感じられ、ジャズ的要素も僅かながらに注入されている。それでもやはりフロアユースでの前提で造られているからこそ、感情的な距離感が保たれている。キックとベースラインが実にファットで、相変わらず漢を感じさせる男前な仕上がりになっていた。


2016年11月13日日曜日

ラーメン 末廣家


ラーメン激戦シティ 横浜の中でも、終わりのない仁義なき戦いが繰り広げられているのが六角橋。この地区を制した店は神奈川県を制したも同じと言われている(かどうかは分からない)が、中でも際立った人気を誇るのが「末廣家」だ。家系総本山として知られる「吉村家」の直系というだけに、累々と流れる家系 DNA がここでも引き継がれている。行列ができていたが回転率が速いので、さほど待つこともなく着席できた。注文したのは中盛ラーメン(750円)に海苔(70円)をプラスして。麺は硬めでお願いした。
 



特徴的なのが薄く切られた特大チャーシュー。もも肉使用とのことだが、しっとりした食感ながらスモーキーな旨味も感じることのできる逸品だ。実に美味しい仕上がりなので、チャーシュー麺にすればよかったと軽く後悔する。ほうれん草は茹で上がりすぎず、新鮮さを保っている。とろりとしたスープは直系だけあって醤油塩分濃度が高めだが、とげとげしさはない。豚骨成分と鶏油の溶け込んだ旨味あるダシが、全体をがっしりサポートしている。鮮度の高い海苔をスープに浸して美味しく召し上がれ。




短く切られた酒井製麺の中太麺は、軽くボソ感を残しながらもモチリとした食感。噛みごたえを楽しみながら、卓上にあったすりおろしニンニクでスープの味をブーストさせる。海苔が演出する磯の香り、小麦が演出する大地の香り、ほうれん草が演出する畑の香り、豚骨スープが演出する農場の香り。これらが渾然一体となり、高次で拮抗しながらバランスを保っている。伝統の味を継承しながらも、チャーシュー等からも新しさを感じさせる味。近くにある「とらきち家」としのぎを削りながら、いい戦いを繰り広げている。


住所:神奈川県横浜市神奈川区六角橋1-14-7

ラーメン 末廣家ラーメン / 白楽駅東白楽駅
夜総合点★★★☆☆ 3.8
昼総合点★★★☆☆ 3.8

2016年11月9日水曜日

Back in Time : Judith Hill



アメリカ人の父親と日本人の母親(そして二人とも音楽家だ)を持つシンガー Judith Hill。マイケル・ジャクソンの「THIS IS IT」に出演し、逝ってしまったプリンスの最後の恋人であったことでも知られている。プリンスは「THIS IS IT」を始めとする数々の場で活躍している彼女の才能を見出し、デビュー作のプロデュースを手がけ、ソニーから大々的にリリースする予定だった。ところがプリンスがフライング気味にハイレゾ音源を無料配信し、ソニーと揉めてしまう。リリースはしばらく見送られ、結果としてまずはiTunes等から配信リリースされ、やがて2016年になってプリンスのレーベル NPG から CD がリリースされたのだ。

今となっては新品の CD 入手も困難なようだが、内容的にはプリンスの手腕が光りまくる素晴らしいものだ。Judith のアカペラから導かれスライ風ファンクになだれ込んでいくリードトラック「As Trains Go By」、隙間の美学が追求されたファンキーチューン「Turn Up」(「皆さん盛り上がりましょう、準備してください」と日本語で語りかける!)、ドラムとストリングスのみの最小構成による(例によってベースレスだ)「Angel In The Dark」の前半でまずやられる。この3曲はプリンスしか作れないだろう。

やがてオールドスクールなメロウバラード、ソウルチューン、ブルース等で全体のバランスを取り、彼女のボーカルが幅広い範囲で適用可能なことを知らしめる。繊細すぎるのでもなく、豪快でパワフルなボーカルでもない。「Wild Tonight」で披露するようなエキセントリックなボーカルスタイルも対応可能。この作品はそんな彼女の魅力を十分に引き出すことに成功しており、プリンスのプロデュース力を改めて痛感してしまう。

MJ とプリンスの両人に才能を見出されながらも、二人とも逝ってしまうという不運に見舞われた彼女の胸中はどのようなものなんだろう。これからの彼女の更なる活躍を心から祈っている。

2016年11月5日土曜日

ラーメン 麺徳 東陽町店



仕事で東陽町を徘徊していた日のこと。永代通りをちょいと横に入ったところに改装中のラーメン店を発見した。青いブルーシート、赤い三角コーン、そして黄色い看板…。予定調和的な何かを感じ、思わず入店するとそこは二郎インスパイア系「ラーメン 麺徳 東陽町店」であった。何を隠そう(隠すまでもないが)、東陽町を訪問することが決まった時から脳内フラグがびんびん立っていたのは言うまでもない。開店間もない時間だったので私が初めての客。食券機で「ラーメン」(700円)を買うと、横で待ち構えていた店のおじさんが、すかさず野菜の量と麺の太さを尋ねてきた。野菜が多いと聞いていたので、ヤサイちょいマシの太麺をお願いした。




カウンターは席ごとに線が引かれており、番号が振られている。指定された席に座ると、刻みタマネギやにんにくといった薬味、カレーパウダーや辛味噌、胡椒、唐辛子といったスパイスが並んでいることに気づく。カスタマイズ自由自在というわけだが、着丼した一杯にはわずかながらのニンニクを入れるのみ。業務中につきニンニクは控えめにするのだよ。普通は入れないなどと野暮なツッコミは止めてほしい。それが漢というものだから。言い添えておくとソロ来店していた女子も散見できた。




事前情報によりヤサイの量を控えていたが、これだったら野菜大盛でも難なくイケたと思う。クタ気味でモヤシ比率の高いやつらを胃に回収し、天地を返せばエッヂの立った平打ち太麺が出現した。ガチとした歯応えを感じつつ、ズバズバ食らうが全体量は控えめに思えた。豚は大型で平べったい奴が一枚入っており、バラ肉のフワトロさではなくロースの肉々しさを感じた。スープは豚骨成分が溶け切っているのでとろみがあるが、塩分控えめで割とライトな味だ。ただし奥行きと深みという立体的な次元を感じさせる、とげとげしさの少ない高得点スープ。途中で刻みタマネギを加えて、スッキリした味付けに変化させる。とろりとした上澄みアブラを回収してご馳走様だ。仄かにニンニク臭を漂わせながら午後の仕事場へと向かった。


住所:東京都江東区東陽3-15-3

ラーメン 麺徳 東陽町店ラーメン / 木場駅東陽町駅
夜総合点★★★☆☆ 3.7
昼総合点★★★☆☆ 3.7

2016年10月30日日曜日

Strange Little Birds : Garbage


Strange Little Birds : Garbage


フロントウーマンの Shirley Manson が語るには「これまでのどの作品よりも控えめ」という、今年6月にリリースされた本作。にも関わらず、どの作品よりもバカでかい音が鳴らされているのに驚く。スピーカーから放射されるエネルギーが凄まじく、メタリックな爆音ギター含めたインダストリアルな音響は紛れもなく Garbage 最新型だ。

何が控えめなのか?やはり「I'm so empty」と歌う気怠さや、作品全体を覆うダークネスな質感などから、精神的な攻撃性を控えめにしているということなんだろう。確かに Shirley の心情はそうなんだろうけど、補完するバンドの攻撃性が凄まじい。また「開放的な状況下で制作された原点回帰的作品」というコメントがある通り、デビュー作で見られた耽美性を見事に取り戻している。過去最高の美しさに満ちており、聴き手の覚醒を促す音圧も申し分なし。20周年通過後にバンドの歴史を一巡し、これまでにないほどパワフルな作品になっていた。

2016年10月26日水曜日

レヴェナント : 蘇えりし者



遅ればせながらレンタルで観たんですが、間違いなく今年最高の映画。そりゃあ数多くの部門でオスカーを受賞した作品だから当然なんですが。監督は「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」に次いで2年連続でアカデミー監督賞受賞という有り得ない栄誉を手にしたアレハンドロ・G・イニャリトゥ。この人は過去に「21グラム」やバベル」と言った名作を手掛けた人なので、是非そちらもご覧いただきたいところ。

物語の舞台は1823年のアメリカ。西部開拓時代にあった実話を基にしています。毛皮狩猟者たちがネイティヴアメリカンと敵対する中で、実在した人物だったヒュー・グラスが熊に襲われ瀕死の重傷を負う。仲間たちから見捨てられ、息子を仲間に殺され、極寒の地でのサバイバルの果てに命を取り留める。これは一人の男の喪失と再生の物語だ。映像美をサポートし続ける、坂本龍一と Alva Noto による冷徹で控えめなオーケストレーション/エレクトロニカも素晴らしい。

この映画で欠かせないのが、言うまでもない俺達のレオナルド・ディカプリオ。人気絶頂前に出演した「ギルバート・グレイプ」でアカデミー助演男優賞にノミネートされた実力派にも関わらず、その後出演した「タイタニック」でアイドルの烙印を押された故に、無冠の帝王として君臨し続けてきたデカ。狂気を感じさせる俳優としてはロバート・デ・ニーロやアル・パチーノの流れを汲んでいるだろう。

その後はスコセッシ監督の名作群やクリント・イーストウッド、クリストファー・ノーラン、クエンティン・タランティーノといった名匠のもとでで素晴らしい演技を披露してきたにも関わらず、オスカーから見放され続けてきた俺達のデカ。まさにこの作品の主人公と同じく、デカは喪失を乗り越えて見事に再生したのだ。彼がオスカー受賞した時、僕も心から嬉しくなったよ。

2016年10月22日土曜日

Arrange and Process Basic Channel Tracks : Scion



先日のTresor 25周年記念パーティに足を運ぶつもりだったんですが、体調を崩してしまったので断念。代わりに家で悶々とこの記念碑的ミックスを聴いておりました。季節の変わり目故、体調崩される方も多いのでご自愛ください。

さて、この Scion とは今では Scion Versions という名にアップデートされたユニットで Pete Kuschnereit a.k.a. Substance と Rene Lowe a.k.a. Vainqueur からなる二人組。Basic Channel の思想を引き継ぎ、ミニマルダブをドープに展開しています。

そしてこのミックスCDは2002年に Tresor からリリースされた200番目の作品で、当時はまだ珍しかった Abelton Live を駆使したミックスを披露。無機質で無展開なオリジナル音源を立体的に再構築することで、ハードエッジな流れを生み出すことに成功しています。随所に挟み込まれる Basic Channel の硬質なエレクトロニックノイズがダビーに光り、延々と反復されるミニマルビートが快楽を紡ぎ出す。煙たくて重い素材が徐々にビルドアップされ突き進んでいくさまは音の洪水としか言い表せない。Basic Channel なんだけど Basic Channel じゃない本ミックスは未だ色褪せていませんでした。

2016年10月14日金曜日

Transport : Juan Atkins & Moritz Von Oswald Present Borderland



この惑星のテクノ中心地として機能し続ける聖地 ベルリンとデトロイト。とりわけベルリンの地下から機能美に溢れた音を発信し続けてきたのが老舗クラブかつレーベル  Tresor であり、ベルリンの壁崩壊直後から営業し続けて四半世紀が経過した。今月には渋谷 Contact でも25周年記念イベントが行われるが、この祝祭に一番の彩りを添えるのが本作。

ベルリン ミニマルダブ総帥であり Basic Channel や自ら率いるトリオで重低音を鳴らし続ける Moritz Von Oswald、かたやデトロイトテクノのリアルな源流であり続ける Juan Atkins。彼らが3年前に「Borderland」という作品でタッグを組んだのは記憶に新しいが、今回は前作名をユニット名に冠して再び惑星降臨。

この作品では四半世紀の時を越えて2大聖地を繋いでおり、地球の中心まで響き渡る重低音と、数光年先まで意識を飛ばされるコズミックな音が調和を取っている。叙情的な感情は一切排除され、両者の鳴らす音が過不足なく融和されており、不可逆的芸術領域に達していると言っていい。単なるミニマルダブとして機能しているのではなく、フロア対応の要素が注入されていることで、過去25年のテクノを総括している仕上がり。名匠2人にしか創り上げられない作品なのは確かで、テクノとは一過性の音楽ではなくエバーグリーンな輝きを放ち続ける文化であることを証明している。

2016年10月10日月曜日

とんトコ豚


私は興味の対象を追求する男。二郎本家の全国制覇を狙い、周辺の二郎インスパイア系をくまなく探し求めてしまう。そう、とことん追求する男なのだ。そんな私がある晩、川崎駅周辺を徘徊していた時、偶然ばったり出会ってしまった店がある。とことん追求する私にぴったりの店名である「とんトコ豚」だ。偶然と書いたがそんなのは真っ赤な嘘で、夜しか営業していないこの店のためにわざわざ足を運んだのだ。まずはラーメン(700円)の食券を渡して、無料トッピングでニンニクヤサイをお願いした。




すると見たこともないような標高差を誇る一杯が着丼した。器はこぼれ落ちるスープを受け止められるよう2枚重ねになっている。だが心配しないでほしい。見た目で一瞬怯んでしまうが、器が小さいので全体的にボリュームはそれほどでもない。モヤシ表面にタレがかかっているが、食べ進むにつれ味が無い部分が表出するので、スープをちょぼちょぼふりかける。キャベツは皆無で茹で加減はクタクタなので、ほとんど水分と言ってもいい。そう「とんトコ豚」のヤサイは飲み物です!




モヤシという名の飲み物を平らげたら、バラ肉を使ったデロデロ柔らかいブタが薄く切られて2枚出現した。箸でつかむとほろり崩壊するほど柔らかく煮込まれている。スープ内部に眠っていた麺を引きずり出し、一口噛みしめればゴワゴワした食感であるガチムチ麺であることを確認できた。店内にはラーメン誌の記事が貼ってあったが、よく見ると「大黒家製麺」の紹介記事であった。おいおい、ここは大黒家製麺系列なのかい?そう言われれば同系列の流れを汲んでいると思われる剛麺。スープは塩分濃度が高くて、二郎系のそれとは若干異なって背脂チャッチャ系寄りだ。食べ終わると口の周りがイガイガするB級ジャンク加減も大黒屋のそれだ。二郎インスパイア系の中でジャンクな味をとことん追求したいなら、やはり「とんトコ豚」に来なくてはいけないだろう。


住所:神奈川県川崎市川崎区貝塚2-16-1

とんトコ豚ラーメン / 川崎新町駅京急川崎駅
夜総合点★★★☆☆ 3.5

2016年10月6日木曜日

Post Pop Depression : Iggy Pop



2016年早々に旧友デヴィッド・ボウイが逝ってしまい、「イギー・ポップ後の憂鬱」と銘打ったアルバムリリースを控えていたイギー・ポップは何を思ったんだろうな、と今更ながら考える。

今年3月にリリースされた本作は、ロックンロールの将来を占う上で非常に重要だ。プロデュースはR&Rシンジケートの中心人物ともいえる QOTSA の Josh Homme に託され、バンドメンバーには同じく QOTSA の Dean Fertita や Arctic Monkeys の Matt Helders が迎えられ、まさしくロックンロールの偉大な流れが継承されている。「Ready To Die」の時に「ロックは高齢者の音楽」と書いたが、かろうじてここで襷が渡されていると言っていい。

Josh プロデュースの引き算的美学が追求され、必要最小限の音がバカでかく鳴っている。そこかしこに本来のイギーが持っているアートの香りが散りばめられ、傷だらけになりながらも生々しく叫び続ける男の姿がここにある。骨太で重たくブルージーな演奏により、目に浮かんでくるのは荒涼とした砂漠の光景だ。

イギー自身が「最後の作品になりそうだ」と語る本作は、キャリアの中でも屈指の傑作と言い切っていい。単に荒々しいだけではない、円熟味が迸る一人の男がここにいる。イギー・ポップ御年69歳。残されたただ一人のロックンロール・ヒーロー也。

2016年10月2日日曜日

ラーメン二郎 新潟店

この歳にもなって日本海を見たことがない私は、「ラーメン二郎 会津若松駅前店」を後にして磐越西線に乗って新潟へと向かった。快速あがのに乗って穀倉地帯〜山岳地帯の絶景を堪能して、西へ西へと2時間半走り抜ける。新潟駅に到着した後、万代口から日本海方面を目指してふらふらと歩く。


取り敢えず燕三条系ラーメンでも食べるか…と、背脂の香りを感じてラーメン店を探したら……二郎じゃないかよ、おい!という演技も早く終わりにしたいものだ。ここは松戸店出身の店主が2015年にオープンさせたばかりという、二郎の中でも一番新しいお店。松戸店は今では三代目に引き継がれている。


17:00に訪問したが、まだ早い時間ということもあって待ち無しですんなりと着席できた。店内はやはり地方店特有のテーブル席有り。客層は都内店よりも女子率が高く、ソロで食している女性客もいるほど。緊張感が漂っていないのも地方店共通だ。この3点こそが地方店の大きな魅力であり、緩いほっこり空気感の中でゆっくり味わうことができるのだ。ラーメン小のコールはニンニクヤサイちょいましで。キャベツ比率が高い。



ブタは超巨大で柔らかいものが2枚。店外には「和豚もち豚」という新潟ブランド豚ののぼりがあったが、看板に偽りない素晴らしい味わい。しっとりと柔らかいながら、噛みごたえ・弾力性もあり、噛めば噛むほどお口の中で溶けていく。おいしいね。


固めに茹で上げられた麺はもっちりモチモチしているが、他店に比べて少なめ。これだったらヤサイはちょいましではなく普通にマシておけば良かった。とろりとしたド乳化スープは非常にバランスが良く、麺をすべて平らげた後でもごくごくいける味わい。上澄みを全て回収するが、豚骨が溶け切った旨味ゆえに完飲したくなる誘惑に駆られる。こうして二郎全国制覇のコマをまた一つ進めた。あと3店舗。

ラーメン二郎 新潟店ラーメン / 新潟駅
夜総合点★★★☆☆ 3.7
昼総合点★★★☆☆ 3.7

2016年9月28日水曜日

K2.0 : Kula Shaker



もはや世間から忘れ去られた感すらある Kula Shaker ですが、今年2月にリリースした6年ぶりの新譜を猿のようにリピート厨。バカ売れしたデビューアルバム「K」(過去レビュー)から20年ですかそうですか。当時はオレ27歳だったけど、今は幾つだっけ(んご)。そのアルバムの次なるバージョンという意志を感じさせるタイトルだけあって、何度聴いてもじわじわくる仕上がりになっている。今年のフジロックに出演するなど日本での支持率は高いんですが、本国UKでは完全黙殺状態。普遍的な音作りなんですが、今の時代にそぐわないということなんでしょうか。

シタールの調べに導かれた呪術的なメロディは非常にスリリング。身を委ねていると太陽よりも高い高みに持っていかれるよう。彼らの持ち味である70年代サイケデリック感覚とアシッドな香りがそこかしこに散りばめられ、東洋志向の曼陀羅ぶりも気持ちいい。オリエンタル要素を支えるグルーヴィーな演奏も鉄壁だ。贅沢を言えば、もっと開き直って印度テイストを注入しちゃえば振り切った感が出たかも。例えばビートルズのサージェント・ペパーズにおける「Within You Without You」みたいな曲だけにしちゃうとかね。

2016年9月24日土曜日

ラーメン二郎 会津若松駅前店

いよいよ全国制覇が視野に入った二郎訪問。残るはあと5店舗となったが、地方に点在するためハードルが非常に高い。ここまで来ると二郎が食べたくて地方に行く、というよりはムキになってお遍路参りしている自分がいる。今回は福島県に唯一存在する会津若松店を訪問してきた。巡礼結願の向こうには何がある?と問われることもあるが、聖地を巡礼するのが目的というしかない。巡礼とはそういうものなのだ。



駅から近い路地に黄色い看板を見つけた瞬間、一気にボルテージが高まった。緊張している私をよそに、17:00オープン直後の店内は下校途中の学生たちや家族連れで和気あいあいムードだ。地方店はカウンター以外の席が設けられていることが多いが、ここはお座敷席が設けられており、地元JK 4人がおしゃべりしながら二郎を楽しんでいた。
店主は東京都下に点在する多摩系で修行を積んだ方とのこと。新小金井街道店八王子野猿街道店2めじろ台法政大学前店などおしなべてクオリティが高い多摩系だけに相当期待が高まる。


ブタのクオリティが高いと聞いていたので、小ラーメン豚入りに生卵を注文。席についた瞬間に聞かれた無料トッピングはニンニクで。着丼までの間に店内を観察したが、列の並び方が分からないお客さん、小さな女の子に取り皿で食べ与えるお父さんなど、都内店でみられる緊張感とは対極にある弛緩モードが非常に微笑ましい。ハッと気がつけば暴力的な一杯が着丼し、自分の中で一気に緊張が走る。



まずは分厚く切られたブタ達を生卵にひたひたと漬け、柔らかい食べ応えと芳醇なお味を楽しむ。あまりにも柔らかいので、卵に浸した瞬間にほろほろと崩壊していく。右手で箸を持ち、左手でピントの合った写真を撮るのは実に難しいが、崩壊する前にカメラに収める苦労を味わうとは!噂に聞いてはいたが、栃木街道店に比類するほどの神豚だ。



程よい加減に茹で上げられたモヤシ中心ヤサイを、甘辛くて適度に乳化したスープに混ぜ合わせて、順調に胃袋の中へと回収していく。やがてかさが減ったところで天地返すと、表面ツル目の平打ち太めストレート麺が顔を出す。小麦の香りが口内に広がり、豊かな大地の恵みを堪能する。そこに絡まった、人智の結晶ともいえるエフゼットとグルエースが溶け込んだスープ。自然と人間の力が織りなすハーモニーとは正にこのこと。ボリュームも中々なので、ブタを増やしてヤサイを増さなかったのは正解だった。会津若松まで足を運んでまでも、食す価値のある一杯だ。

ラーメン二郎 会津若松駅前店ラーメン / 会津若松駅
夜総合点★★★☆☆ 3.8
昼総合点★★★☆☆ 3.8

2016年9月18日日曜日

GETAWAY : Red Hot Chili Peppers



John Frusciante が信頼を置くギタリスト Josh Klinghoffer。そんな彼が加入して作り上げられた「I'm With You」以来、5年ぶりとなる俺達の RHCP 最新作。この作品の評価がかなりの賛否両論になっています。プロデューサーに Danger Mouse が起用されていることもあり、音作りは極めてマイルド。酸いも甘いも噛み分けた彼らが大人になり、ファンク基調のロックは変わらないものの、哀愁を帯びた切ない作品になっています。

美メロ揃いなのでとても聴きやすい作品ではあるんだけど、かつての彼らが持っていた攻撃性は皆無。「母乳」の頃に持っていたやんちゃっぷりは全く無い。古くからのファンはこの頃の刷り込みが強いので、今の彼らを見ると非常におとなしく感じるんだろう。「母乳」がリリースされたのが今から27年前の1989年。その頃の若者は50歳前後だ(僕を含めて)。そりゃおとなしくなるか。

悪くはない。でもここ最近の彼らにあるような既視感たっぷり。大人になると攻撃性が薄れるのは RHCP でも同じことなんだろう。引き換えに得たものは洗練性と苦み。ロックはこうやって年老いていくのか。僕らがレッチリにまだまだ期待し続けるということは、ロックの次世代を担うパフォーマーが現れていない証左に他ならない。



2016年9月14日水曜日

The Ship : Brian Eno



今年4月にリリースされた Brian Eno の新作は「Lux」以来4年ぶりとなるが、本作ではタイタニック号の沈没をモチーフにしているとのこと。また、今年1月に逝ってしまった盟友 David Bowie に捧げられている模様。1曲目のタイトル曲は21分にも及び、穏やかな大海を想起させる。2曲目は3章で構成された組曲形式であり、美大生の頃にインスパイアされたという The Velvet Underground の「I’m Set Free」がカバーされている。

全編に渡り壮大なるアンビエントに支配されたアヴァンギャルドな実験作品ではあるが、それは現代における我々の心象風景を表現しているかのよう。冒頭では静かな船出を連想させたが、中盤のポエトリー・リーディングやスポークン・ワードの導入によって流れは変わっていく。それはまるで船頭の舟歌のようで、混沌と無秩序に支配された我々の不安を煽る。北海に霧がかったようなサウンドスケープが展開される中、終盤を引き継ぐのは天からの光のように我々を救済する「I’m Set Free」だ。これまでの Eno 作品のどれとも似ていない、物語性と連続性を感じさせる野心作であり、新たなる地平へと踏み出した大いなる一歩と取れる作品だ。

Tracklist 

01. The Ship 
02. Fickle Sun 
(i) Fickle Sun 
(ii) The Hour Is Thin 
(iii) I’m Set Free

2016年9月11日日曜日

ぎょうてん屋 町田店


神奈川県への編入が目される町田市を徘徊し、腹が減ってきたので目についた家系ラーメン店に入った。ごはん無料・おかわり自由という太っ腹ぶりで、メニューも家系ラーメン以外にいろいろと取り揃えている模様。取り敢えず食券機で大きく掲げられている「ぎ郎」というよく分からないメニューを購入した、一抹の不安を覚えながら…。さすれば無料トッピングを尋ねられたので思わず「ニンニクヤサイ 麺かため」と呪文を唱えてしまった。




むーん。ここは家系ラーメン店じゃないのか!この二郎系に仰天だ!はっ、「ぎょうてん家」が提供する二郎で「ぎ郎」なのか、うまく騙しやがってー!という予定調和な演技はここまでにしたい。着丼した瞬間、隣に座っていたカップルにくすくす笑われたので、恥じらいながらスープをヤサイにふりかけ始めた。キャベツ比率低めモヤシ中心のヤサイはクタ気味だ。スープは再現性の高い甘辛さながらもアブラ控えめでライトな味わい。ブタはロースを使用しており、甘く味付けされているものの柔らかさで言えば及第点といった按配だ。




ヤサイの物量に四苦八苦しながら、敗北感とせめぎ合って天地を返す。するとカエシを十分に吸い上げた極太麺がごわりと顔を出す。かためを頼んだ故に、食べる度にがしがしと噛みしめるが、この動作だけで満腹感がハンパない。にんにくが溶け込んだジャンクな味わいのスープが、箸をすすめる手助けをしてくれる。これはもはや食事という次元を超えた行為だ。かろうじて完食するも、やはり極太麺のかためはハードルが高くなる。それにしても家系ラーメン店でお手軽に二郎系が食べられる時代になったとは仰天だ。再現性もヨシ。


住所:東京都町田市原町田4-11-14

ぎょうてん屋 町田店ラーメン / 町田駅
夜総合点★★★☆☆ 3.6
昼総合点★★★☆☆ 3.6

2016年9月7日水曜日

From My Mind to Yours : Richie Hawtin


From My Mind to Yours : Richie Hawtin


テクノ界の酒サムライとして頂点に君臨し続ける俺達の Richie Hawtin。長きに渡って自身のレーベル Plus 8 を主宰していますが、設立から25年も経過したそう。このアルバムはそれを記念して2015年末にリリースされた2枚組。ここには本人名義だけでなく、Plastikman や Robotman、F.U.S.E. といった様々な名義でのトラックが収録されています。

そもそもアルバムが本人名義になっているのって久しぶりじゃないですか。なになにエポックメイキングなミックスアルバム「De9: Transitions」から数えると10年ぶり。本人名義のオリジナルアルバムを調べてみると…ない!これが初めてじゃないですか?!その事実からして、集大成的作品にして記念碑的作品であるのは間違いありません。

ここに収められているのは機能美に溢れたミニマルでアシッドなトラックばかり。引き算の美学が随所に感じられますが、あくまでもツールとして存在しているだけで、革新性は感じられない。トラックを複合的にミックスする Richie のプレイでは威力を発揮するんでしょうが、リスニング対象とするには物足りない。聴くものを覚醒させながら深淵へと誘う感覚は健在なんですが、あくまでも基本に立ち返った姿勢が感じられるだけ。やはり Richie は素材を縦横無尽に駆使するミックスで、イノベーターたる本領を発揮するのかしら。

tracklisting


01. Richie Hawtin - No Way Back
02. Childsplay - Stretching
03. Robotman - Simple Simon
04. F.U.S.E. - Them
05. F.U.S.E. - Close
06. Plastikman - Purrkusiv
07. Plastikman - Gymnastiks
08. Circuit Breaker - Systematic
09. 80xx - Creepr
10. Plastikman - Akrobatix
11. Plastikman - Cirkus
12. 80xx - Creatur
13. 80xx - Grindr
14. Plastikamn vs. F.U.S.E. - EXpanded
15. R.H.X. - Xtension

2016年9月3日土曜日

The Mountain Will Fall : DJ Shadow


The Mountain Will Fall : DJ Shadow


稀代の偏執的ヴァイナルジャンキーであり、レアグルーヴへの限りない愛情を表明し続け、アブストラクトヒップホップの概念を創り上げた男 DJ Shadow。サンプラーだけで制作したアルバム「Endtroducing...」(「世界で初めてのサンプリングのみで作られたアルバム」とギネスブック認定)から20年が経ちました。


あれから数々のアルバムをリリースしてきた中で、2006年の「The Outsider」ではハイフィーの大胆な導入により旧ファン層を驚かせたシャドウ。かつてのアブストラクトな要素が薄れていき、メインストリーム寄りになったシャドウはどこへ行くのか?というのが旧ファンの共通認識だったと思います。そして5年ぶりの新作で奴は帰ってきた、間違いなく!


どこから掘ってきたのか分からないドタドタしたドラムビートをサンプリングし、かつてのブレイクビーツな感覚が蘇っているじゃないですか。リードトラック「The Mountain Will Fall」のレトロフューチャートラックで鷲掴みされ、続く「Nobody Speak」では様々なフィールドのミュージシャンから熱い視線を浴びている Run The Jewels をフィーチャーし、マザファカな現代感覚への目配せも忘れちゃいない。シャドウの旗印であるメロウで哀愁漂うウワモノも全編に散りばめられ、なおかつマッシヴでファットな骨格が力強く支えまくる。


数年前、「未来的すぎる」という理由でプロモーターからクラブプレイを強制終了させられた出来事がありましたが、この時のDJプレイがホーリーシットに格好いい(リンクから聴けるので是非お試しあれ)。原点開始しながら、この時の経験を踏まえている最新型アブストラクトヒップホップを聴かずにはいられないよ。






2016年8月28日日曜日

麺喰亭 まんぷく


かつて新高円寺に「鶏とふじ」という二郎インスパイア系があった。いつか訪問しようと目論んでいたが、いつの間にか(2014年末とのこと)「麺喰亭 まんぷく」と店名を変え、世田谷区は梅ヶ丘へ移転していた。以前の記事で、世田谷区を「日本で一番、二郎密度が高いエリア」と言い切ったことがあるが、はからずもこれを実証したことになる。閑静な住宅街を歩けば「腹が減ったらうちに来い!!」という看板にぶち当たるが、やはりセレブリティは二郎系がお好き、というわけだ。




醤油らーめん(700円、350g)の食券を購入し、ヤサイニンニクアブラの無料トッピングをお願いしたところ、天高くそびえ立つ一杯が着丼した。食べる者に敗北感を与えるような物量だが、このボリュームこそ看板に偽りなし。デロデロに振りかけられたアブラを支えるモヤシ中心のヤサイ、厚めに切られたふわり柔らかいブタ、珍しい味付けニンニクで構成されている。




スープは二郎系に忠実な甘辛い味付けで、程よく乳化しており旨味あふれる。これに味付けニンニクを溶かしこむと、更なる深みが生まれて味がブーストされる。ヤサイを減らしたところで天地返せば、ぐりんぐりんに縮れた極太麺が現れる。そのコシ半端なく、ガチとしてむっちりムチムチな食べ応えで、この麺を噛みしめるだけで満腹中枢が悲鳴を上げる。ヒリヒリするような自分との闘いに打ち勝ち、どうにか麺とヤサイを全て食べ収める。さすればヤサイに降りかかっていたアブラがスープに溶け込んでおり、いい具合のとろみあるスープへと変貌していた。上澄みのアブラを回収してごちそうさまを告げた。うむ、間違いない一杯。


住所:東京都世田谷区梅丘1-9-11 梅丘コーポ101

麺喰亭 まんぷくラーメン / 梅ケ丘駅豪徳寺駅山下駅
夜総合点★★★☆☆ 3.7
昼総合点★★★☆☆ 3.7