2016年1月20日水曜日

★ : David Bowie



2016年1月10日 デヴィッド・ボウイ逝去。

その訃報は突如としてもたらされ、全世界が驚き嘆き悲しんだ(今も悲しみは続いている)。2日前の69歳の誕生日、「The Next Day」(過去レビュー)以来3年ぶりの新作をリリースしたばかりということもあり、突然のニュースに誰もが驚いたはずだ。NHKニュース7の冒頭に流れた映像はボウイで、その知らせはかなりのインパクトを持っていた。ただし、今振り返ってみれば突然ということではなく、ボウイらしい別れの置き土産を残して逝ってしまったのだ。

僕はといえば、映画「ブリッジ・オブ・スパイ」を見終えて帰宅した直後にそのニュースを知った。その映画はスピルバーグ監督による、ベルリンの壁構築直後における米ソの駆け引きを描いたスパイ映画。アシッドフォーク、グラマラス、アヴァンギャルド、ニューウェーヴ、インダストリアルと様々な変遷を遂げたボウイの中でも、とりわけ僕にとってはベルリン三部作時代のアヴァンギャルドなボウイが一番好きだった。だからこそ、あの日は余計に因縁めいたものを感じてしまったんだ。まさかボウイが死ぬなんて思ってもいなかった。ボウイも死ぬことがあるんだ、そう思ったらとても悲しくなった。

家に届いたばかりの新作タイトルは奇しくも「★(Blackstar)」。ジギー・スターダストは本当の星になったと思った。でもそれはボウイが仕掛けた予定調和だったに過ぎない。友人が「新曲 Lazarus の PV を今からみるといろいろ暗示はあったのに全然気づかなかった」と言ってたので確認したところ…これはもはや悟りとしか思えない内容だった(詳しくは自分の目で確認してほしい)。後追いで勘ぐるのは控えようと思っていたが、プロデューサーのトニー・ヴィスコンティの証言からして、置き土産を作ったのは間違いない。キリスト教における復活のアイコンである「Lazarus」というタイトルを冠した曲は「Look up here, I'm in heaven(見上げてごらん、僕は天国にいる)」という一節で始まり、「Oh I'll be free Just like that bluebird Oh I'll be free Ain't that just like me(僕は自由だ 青い鳥のように 僕は自由だ 僕みたいじゃないか) 」の一節で締めくくられる。

この曲に限らずアルバム全編を通して、人生の幕を引こうという強い意志が感じられる。それは悲壮的な感情ではなく、尋常ではない強靭なポジティヴィティだ。ボウイが元々持っているアヴァンギャルド性が現代ジャズの要素によって表明され、攻撃性がドラムンベースによって表現され、多くのミュージシャンに支持されている耽美性の源泉がふつふつと湧き出ている。この作品は紛れも無く、ボウイ史上の中でも最高傑作に入る部類だ。自分を演じ続けて、最期まで自分を演じきった男の姿がここにある。さようならボウイ、ありがとうボウイ。最期まで美しくて格好良かったよ。地球に落ちてきた男は再び宇宙に戻ってしまったが、スターマンになっても僕たちを照らし続けてくれるだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿