2016年3月16日水曜日

From Farthest Known Objects : Surgeon



「Breaking the Frame」(過去レビュー)以来5年ぶりとなる、ハードミニマルの重鎮 Surgeon が新作をリリース。90年代中期以降、ハードミニマルの代名詞的存在として知られている Surgeon ですが、日本語盤の帯に『未知との更新、テクノは再び宇宙へと向かう』と書かれているのを見て不安に思ったのは僕だけではあるまい。Surgeon に大いなるインスピレーションを与えた Jeff Mills が2000年前後から宇宙志向になり、かつての作風を変えてしまったのは広く知られるところ。今月には東京フィルハーモニー交響楽団と共演するなど意欲的な試みを続けているが、やはりド変態ユーザはハードなあれをぶっ込んで欲しいのだよ。そんな Jeff Mills が正真正銘の宇宙人になってしまった今、すわ「Surgeonよ、お前もか」と思ったが、一聴して懸念は払拭された。

シンセサイザーがソフトウェア化されている今、マニアにとって新たな潮流となっているのがモジュラーシンセサイザーであり、マニアの頂点として君臨している Surgeon もモジュラーシンセにご執心のご様子。モジュラーシンセを簡単に説明すると、アナログシンセに搭載されている機能をモジュール化して、独自システムとして構築したシンセサイザーを指すらしい…が僕もマニアではないので詳しくはこういうページを参照して下さい(と逃げます)。

こういったアナログ機をいじっているときに「遠く離れた銀河からの電波信号を受けた」のが Surgeon で、この経験からインスピレーションを受けたのが本作。けれども Jeff Mills の荘厳な宇宙志向とは異なり、この作品に渦巻いているのはアナログのざらついた質感をもったテクノイズ。三つ子の魂百までというか、Surgeon のインダストリアルな重力は全く損なわれていなかった。アナログ要素が注入されたことでエレクトリック・ボディ・ミュージックでもあり、BPM がやや低めということでファットなグルーヴ感覚が重視されたノイズ・ミュージックでもあり、アナログとデジタルの融合により新たな地平へと達したエクスペリメンタル・ミュージックでもある。この重心低めの狂気あふれる作品は紛うことなき Surgeon であった。

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