2016年10月30日日曜日

Strange Little Birds : Garbage


Strange Little Birds : Garbage


フロントウーマンの Shirley Manson が語るには「これまでのどの作品よりも控えめ」という、今年6月にリリースされた本作。にも関わらず、どの作品よりもバカでかい音が鳴らされているのに驚く。スピーカーから放射されるエネルギーが凄まじく、メタリックな爆音ギター含めたインダストリアルな音響は紛れもなく Garbage 最新型だ。

何が控えめなのか?やはり「I'm so empty」と歌う気怠さや、作品全体を覆うダークネスな質感などから、精神的な攻撃性を控えめにしているということなんだろう。確かに Shirley の心情はそうなんだろうけど、補完するバンドの攻撃性が凄まじい。また「開放的な状況下で制作された原点回帰的作品」というコメントがある通り、デビュー作で見られた耽美性を見事に取り戻している。過去最高の美しさに満ちており、聴き手の覚醒を促す音圧も申し分なし。20周年通過後にバンドの歴史を一巡し、これまでにないほどパワフルな作品になっていた。

2016年10月26日水曜日

レヴェナント : 蘇えりし者



遅ればせながらレンタルで観たんですが、間違いなく今年最高の映画。そりゃあ数多くの部門でオスカーを受賞した作品だから当然なんですが。監督は「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」に次いで2年連続でアカデミー監督賞受賞という有り得ない栄誉を手にしたアレハンドロ・G・イニャリトゥ。この人は過去に「21グラム」やバベル」と言った名作を手掛けた人なので、是非そちらもご覧いただきたいところ。

物語の舞台は1823年のアメリカ。西部開拓時代にあった実話を基にしています。毛皮狩猟者たちがネイティヴアメリカンと敵対する中で、実在した人物だったヒュー・グラスが熊に襲われ瀕死の重傷を負う。仲間たちから見捨てられ、息子を仲間に殺され、極寒の地でのサバイバルの果てに命を取り留める。これは一人の男の喪失と再生の物語だ。映像美をサポートし続ける、坂本龍一と Alva Noto による冷徹で控えめなオーケストレーション/エレクトロニカも素晴らしい。

この映画で欠かせないのが、言うまでもない俺達のレオナルド・ディカプリオ。人気絶頂前に出演した「ギルバート・グレイプ」でアカデミー助演男優賞にノミネートされた実力派にも関わらず、その後出演した「タイタニック」でアイドルの烙印を押された故に、無冠の帝王として君臨し続けてきたデカ。狂気を感じさせる俳優としてはロバート・デ・ニーロやアル・パチーノの流れを汲んでいるだろう。

その後はスコセッシ監督の名作群やクリント・イーストウッド、クリストファー・ノーラン、クエンティン・タランティーノといった名匠のもとでで素晴らしい演技を披露してきたにも関わらず、オスカーから見放され続けてきた俺達のデカ。まさにこの作品の主人公と同じく、デカは喪失を乗り越えて見事に再生したのだ。彼がオスカー受賞した時、僕も心から嬉しくなったよ。

2016年10月22日土曜日

Arrange and Process Basic Channel Tracks : Scion



先日のTresor 25周年記念パーティに足を運ぶつもりだったんですが、体調を崩してしまったので断念。代わりに家で悶々とこの記念碑的ミックスを聴いておりました。季節の変わり目故、体調崩される方も多いのでご自愛ください。

さて、この Scion とは今では Scion Versions という名にアップデートされたユニットで Pete Kuschnereit a.k.a. Substance と Rene Lowe a.k.a. Vainqueur からなる二人組。Basic Channel の思想を引き継ぎ、ミニマルダブをドープに展開しています。

そしてこのミックスCDは2002年に Tresor からリリースされた200番目の作品で、当時はまだ珍しかった Abelton Live を駆使したミックスを披露。無機質で無展開なオリジナル音源を立体的に再構築することで、ハードエッジな流れを生み出すことに成功しています。随所に挟み込まれる Basic Channel の硬質なエレクトロニックノイズがダビーに光り、延々と反復されるミニマルビートが快楽を紡ぎ出す。煙たくて重い素材が徐々にビルドアップされ突き進んでいくさまは音の洪水としか言い表せない。Basic Channel なんだけど Basic Channel じゃない本ミックスは未だ色褪せていませんでした。

2016年10月14日金曜日

Transport : Juan Atkins & Moritz Von Oswald Present Borderland



この惑星のテクノ中心地として機能し続ける聖地 ベルリンとデトロイト。とりわけベルリンの地下から機能美に溢れた音を発信し続けてきたのが老舗クラブかつレーベル  Tresor であり、ベルリンの壁崩壊直後から営業し続けて四半世紀が経過した。今月には渋谷 Contact でも25周年記念イベントが行われるが、この祝祭に一番の彩りを添えるのが本作。

ベルリン ミニマルダブ総帥であり Basic Channel や自ら率いるトリオで重低音を鳴らし続ける Moritz Von Oswald、かたやデトロイトテクノのリアルな源流であり続ける Juan Atkins。彼らが3年前に「Borderland」という作品でタッグを組んだのは記憶に新しいが、今回は前作名をユニット名に冠して再び惑星降臨。

この作品では四半世紀の時を越えて2大聖地を繋いでおり、地球の中心まで響き渡る重低音と、数光年先まで意識を飛ばされるコズミックな音が調和を取っている。叙情的な感情は一切排除され、両者の鳴らす音が過不足なく融和されており、不可逆的芸術領域に達していると言っていい。単なるミニマルダブとして機能しているのではなく、フロア対応の要素が注入されていることで、過去25年のテクノを総括している仕上がり。名匠2人にしか創り上げられない作品なのは確かで、テクノとは一過性の音楽ではなくエバーグリーンな輝きを放ち続ける文化であることを証明している。

2016年10月10日月曜日

とんトコ豚


私は興味の対象を追求する男。二郎本家の全国制覇を狙い、周辺の二郎インスパイア系をくまなく探し求めてしまう。そう、とことん追求する男なのだ。そんな私がある晩、川崎駅周辺を徘徊していた時、偶然ばったり出会ってしまった店がある。とことん追求する私にぴったりの店名である「とんトコ豚」だ。偶然と書いたがそんなのは真っ赤な嘘で、夜しか営業していないこの店のためにわざわざ足を運んだのだ。まずはラーメン(700円)の食券を渡して、無料トッピングでニンニクヤサイをお願いした。




すると見たこともないような標高差を誇る一杯が着丼した。器はこぼれ落ちるスープを受け止められるよう2枚重ねになっている。だが心配しないでほしい。見た目で一瞬怯んでしまうが、器が小さいので全体的にボリュームはそれほどでもない。モヤシ表面にタレがかかっているが、食べ進むにつれ味が無い部分が表出するので、スープをちょぼちょぼふりかける。キャベツは皆無で茹で加減はクタクタなので、ほとんど水分と言ってもいい。そう「とんトコ豚」のヤサイは飲み物です!




モヤシという名の飲み物を平らげたら、バラ肉を使ったデロデロ柔らかいブタが薄く切られて2枚出現した。箸でつかむとほろり崩壊するほど柔らかく煮込まれている。スープ内部に眠っていた麺を引きずり出し、一口噛みしめればゴワゴワした食感であるガチムチ麺であることを確認できた。店内にはラーメン誌の記事が貼ってあったが、よく見ると「大黒家製麺」の紹介記事であった。おいおい、ここは大黒家製麺系列なのかい?そう言われれば同系列の流れを汲んでいると思われる剛麺。スープは塩分濃度が高くて、二郎系のそれとは若干異なって背脂チャッチャ系寄りだ。食べ終わると口の周りがイガイガするB級ジャンク加減も大黒屋のそれだ。二郎インスパイア系の中でジャンクな味をとことん追求したいなら、やはり「とんトコ豚」に来なくてはいけないだろう。


住所:神奈川県川崎市川崎区貝塚2-16-1

とんトコ豚ラーメン / 川崎新町駅京急川崎駅
夜総合点★★★☆☆ 3.5

2016年10月6日木曜日

Post Pop Depression : Iggy Pop



2016年早々に旧友デヴィッド・ボウイが逝ってしまい、「イギー・ポップ後の憂鬱」と銘打ったアルバムリリースを控えていたイギー・ポップは何を思ったんだろうな、と今更ながら考える。

今年3月にリリースされた本作は、ロックンロールの将来を占う上で非常に重要だ。プロデュースはR&Rシンジケートの中心人物ともいえる QOTSA の Josh Homme に託され、バンドメンバーには同じく QOTSA の Dean Fertita や Arctic Monkeys の Matt Helders が迎えられ、まさしくロックンロールの偉大な流れが継承されている。「Ready To Die」の時に「ロックは高齢者の音楽」と書いたが、かろうじてここで襷が渡されていると言っていい。

Josh プロデュースの引き算的美学が追求され、必要最小限の音がバカでかく鳴っている。そこかしこに本来のイギーが持っているアートの香りが散りばめられ、傷だらけになりながらも生々しく叫び続ける男の姿がここにある。骨太で重たくブルージーな演奏により、目に浮かんでくるのは荒涼とした砂漠の光景だ。

イギー自身が「最後の作品になりそうだ」と語る本作は、キャリアの中でも屈指の傑作と言い切っていい。単に荒々しいだけではない、円熟味が迸る一人の男がここにいる。イギー・ポップ御年69歳。残されたただ一人のロックンロール・ヒーロー也。

2016年10月2日日曜日

ラーメン二郎 新潟店

この歳にもなって日本海を見たことがない私は、「ラーメン二郎 会津若松駅前店」を後にして磐越西線に乗って新潟へと向かった。快速あがのに乗って穀倉地帯〜山岳地帯の絶景を堪能して、西へ西へと2時間半走り抜ける。新潟駅に到着した後、万代口から日本海方面を目指してふらふらと歩く。


取り敢えず燕三条系ラーメンでも食べるか…と、背脂の香りを感じてラーメン店を探したら……二郎じゃないかよ、おい!という演技も早く終わりにしたいものだ。ここは松戸店出身の店主が2015年にオープンさせたばかりという、二郎の中でも一番新しいお店。松戸店は今では三代目に引き継がれている。


17:00に訪問したが、まだ早い時間ということもあって待ち無しですんなりと着席できた。店内はやはり地方店特有のテーブル席有り。客層は都内店よりも女子率が高く、ソロで食している女性客もいるほど。緊張感が漂っていないのも地方店共通だ。この3点こそが地方店の大きな魅力であり、緩いほっこり空気感の中でゆっくり味わうことができるのだ。ラーメン小のコールはニンニクヤサイちょいましで。キャベツ比率が高い。



ブタは超巨大で柔らかいものが2枚。店外には「和豚もち豚」という新潟ブランド豚ののぼりがあったが、看板に偽りない素晴らしい味わい。しっとりと柔らかいながら、噛みごたえ・弾力性もあり、噛めば噛むほどお口の中で溶けていく。おいしいね。


固めに茹で上げられた麺はもっちりモチモチしているが、他店に比べて少なめ。これだったらヤサイはちょいましではなく普通にマシておけば良かった。とろりとしたド乳化スープは非常にバランスが良く、麺をすべて平らげた後でもごくごくいける味わい。上澄みを全て回収するが、豚骨が溶け切った旨味ゆえに完飲したくなる誘惑に駆られる。こうして二郎全国制覇のコマをまた一つ進めた。あと3店舗。

ラーメン二郎 新潟店ラーメン / 新潟駅
夜総合点★★★☆☆ 3.7
昼総合点★★★☆☆ 3.7