2016年11月29日火曜日

For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder ? : The Pop Group



The Pop Group の新作がリリースされたので、80年にリリースされた不朽の名作誉れ高い本作を聴き返した。ちなみに僕が持っているのは2016年2月にリマスターリリースされたもので、それまでは永らく廃盤状態にあった作品です。オリジナルに収録された The Last Poets 参加トラック「One Out of Many」の権利関係で揉めていたらしいんですが、そのトラックを削除して「We Are All Prostitutes」が代わりに収録されています。元々は先行シングルとしてリリースされていた「We Are All Prostitutes」を収録することで、本来あるべき姿になったということですが、まあ細かいことは気にしないで欲しい。

デビューアルバムだった「最後の警告」がブリストルサウンドの原点を感じさせるダブ的作品だったのに対し、本作は不協和音によるアジテーションミュージックになっている。ファンクやフリージャズ、ノイズミュージックといった要素を注入したパンクなんですが、不条理に対する怒りや苛立ちがびしびしと伝わってくる。マーク・スチュワートのボーカルを聴いた当時の人は腰抜かしただろうなぁ、と思えるような絶叫と扇情にまみれています。メロディらしきものは在って無いようなもので、ジプシーの子供たちがキスをする象徴的なジャケットからは程遠い世界を作っています。これを聴くとピストルズですら甘く聴こえる、本気で戦っている音楽。

2016年11月25日金曜日

ぶたやま


発展著しい武蔵小杉・新丸子エリアがラーメン激戦区となり、その波が武蔵中原〜武蔵新城にまで及んでいる。新城といえば二郎インスパイア系「107」の牙城であったが、非常にわかりやすい屋号で殴り込んできた店が2016/11/11にオープン。その名は「ぶたやま」。通常だと730円のラーメンが、開店サービスとして500円で提供されていたので早速足を運ぶ(11/18でサービス終了)。ご覧の通り行列ができていたが、中には二郎系を知らないであろう地元のおばちゃん達も。おいおい大丈夫なのかい?
 




食券を渡すと同時に無料トッピングを聞かれたので「ニンニクヤサイアブラ」をお願いした。するとブタがヤサイの山を支える、店の名前に恥じない一杯が着丼した。ヤサイ山の頂にはふわふわしたアブラが積もっており、麓を流れるスープを振りかけて溶かし込む。ヤサイはキャベツ比率が低めだが、野菜高騰のご時勢なのでやむ無しと言ったところ。標準的な茹で具合のヤサイを順調に減らしていく。




ほぼほぼヤサイを減らしたところ、くるりとローリングしたブタが2枚現れた。ふわりとした柔らかさで好感が持てる美味しさだ。スープの上澄みには透明な油膜が張られ、甘辛く味付けされた醤油味がきりりと立った非乳化なもの。麺を引きずり出すと、捻れた太めゴワ麺が表出した。ガチリとしたグルーヴィな噛みごたえでG感覚も十分だ。厨房に目をやると菅野製麺所の文字が見えたので、自家製ではなくアウトソースしていることを確認。このあたりに老獪な戦略が感じられる。総じてバランスがよろしく、オープン直後なのに完成度が極めて高い。また再訪したくなる味の良さだが、もはや街を歩けば二郎系に当たる時代になったことに驚いてしまう。

ホームページ:http://butayama.com/
ぶたやまラーメン / 武蔵新城駅
夜総合点★★★☆☆ 3.7
昼総合点★★★☆☆ 3.7

2016年11月21日月曜日

この世界の片隅に


この世界の片隅に

能年玲奈 改め のん が完全復活の狼煙を上げた本作を観てきました。独立に伴うごたごたで、表舞台からしばらく遠ざかっていたのをヤキモキして見ていましたが…やはり凄いね、のんさん。天賦の才があるとしか思えん。あまちゃんでは天野アキを演じるために生まれてきたんじゃないの?と思ってましたが、本作のすずさんでも同じことを思う。すずさんを演じれるのはのんさんしかいない。圧倒的な存在感を放っていた、のんにしか放てない輝きがあった。

戦時下の広島・呉を舞台にしたこの映画、非日常な時代でのささやかな日常が描かれていますが、ふんわりした色彩とタッチ、独特のペーソスを持った演出が実に心地いい。淡々と物語は進み、大切なものを失いながらも暦は昭和20年8月へとめくられていく。「あまちゃん」では3/11に向かって話が進んでいったけど、この話では8/6に向かって話が進んでいく。日本人が知っているその日へ、日常は進んでいく。

戦争が終わっても、淡々と日常は進んでいく。草花、虫、景色や食べ物が柔らかく描かれているからこそ、戦争の残酷さが際立ってくる。一秒一秒すべての瞬間が愛おしくて抱きしめたくなる。お涙頂戴な話じゃないんだけど、周りの人はみんな(僕も)ぽろぽろ泣いていたよ。観終わってから大慌てで原作を読んだけど、オリジナルに忠実なばかりか、世界観をさらに拡張している見事さに気づきました。この間の記事で「間違いなく今年最高の映画」と書いたけど、ごめんこっちの方が最高でした。

2016年11月17日木曜日

You Find The Key : 田中フミヤ


You Find The Key : 田中フミヤ


Unknown 3」以来8年ぶりとなる田中フミヤの新作アルバム。今回のリリースは名門 Perlon から。ベルリンに拠点を移して継続的に DJ 活動を行っており、またヴァイナルでの EP も散発的にドロップしていることからも、アルバムリリースが8年ぶりだったという事実に少々驚く。


このアルバムで鳴らされているのは Ricardo Villalobos の影響を多分に受けたオーガニック感覚に溢れたミニマルの極北。テクノというタームさえ似合わない有機的な香りが漂っている。粘着的でパーカッシヴな音と奇妙なヴォイスサンプルが混ざり合い、丸みのあるプロダクションによってストイックな音響空間が構築されている。


泥の香りがしながらも、なおかつハウスの残り香がかすかに感じられ、ジャズ的要素も僅かながらに注入されている。それでもやはりフロアユースでの前提で造られているからこそ、感情的な距離感が保たれている。キックとベースラインが実にファットで、相変わらず漢を感じさせる男前な仕上がりになっていた。


2016年11月13日日曜日

ラーメン 末廣家


ラーメン激戦シティ 横浜の中でも、終わりのない仁義なき戦いが繰り広げられているのが六角橋。この地区を制した店は神奈川県を制したも同じと言われている(かどうかは分からない)が、中でも際立った人気を誇るのが「末廣家」だ。家系総本山として知られる「吉村家」の直系というだけに、累々と流れる家系 DNA がここでも引き継がれている。行列ができていたが回転率が速いので、さほど待つこともなく着席できた。注文したのは中盛ラーメン(750円)に海苔(70円)をプラスして。麺は硬めでお願いした。
 



特徴的なのが薄く切られた特大チャーシュー。もも肉使用とのことだが、しっとりした食感ながらスモーキーな旨味も感じることのできる逸品だ。実に美味しい仕上がりなので、チャーシュー麺にすればよかったと軽く後悔する。ほうれん草は茹で上がりすぎず、新鮮さを保っている。とろりとしたスープは直系だけあって醤油塩分濃度が高めだが、とげとげしさはない。豚骨成分と鶏油の溶け込んだ旨味あるダシが、全体をがっしりサポートしている。鮮度の高い海苔をスープに浸して美味しく召し上がれ。




短く切られた酒井製麺の中太麺は、軽くボソ感を残しながらもモチリとした食感。噛みごたえを楽しみながら、卓上にあったすりおろしニンニクでスープの味をブーストさせる。海苔が演出する磯の香り、小麦が演出する大地の香り、ほうれん草が演出する畑の香り、豚骨スープが演出する農場の香り。これらが渾然一体となり、高次で拮抗しながらバランスを保っている。伝統の味を継承しながらも、チャーシュー等からも新しさを感じさせる味。近くにある「とらきち家」としのぎを削りながら、いい戦いを繰り広げている。


住所:神奈川県横浜市神奈川区六角橋1-14-7

ラーメン 末廣家ラーメン / 白楽駅東白楽駅
夜総合点★★★☆☆ 3.8
昼総合点★★★☆☆ 3.8

2016年11月9日水曜日

Back in Time : Judith Hill



アメリカ人の父親と日本人の母親(そして二人とも音楽家だ)を持つシンガー Judith Hill。マイケル・ジャクソンの「THIS IS IT」に出演し、逝ってしまったプリンスの最後の恋人であったことでも知られている。プリンスは「THIS IS IT」を始めとする数々の場で活躍している彼女の才能を見出し、デビュー作のプロデュースを手がけ、ソニーから大々的にリリースする予定だった。ところがプリンスがフライング気味にハイレゾ音源を無料配信し、ソニーと揉めてしまう。リリースはしばらく見送られ、結果としてまずはiTunes等から配信リリースされ、やがて2016年になってプリンスのレーベル NPG から CD がリリースされたのだ。

今となっては新品の CD 入手も困難なようだが、内容的にはプリンスの手腕が光りまくる素晴らしいものだ。Judith のアカペラから導かれスライ風ファンクになだれ込んでいくリードトラック「As Trains Go By」、隙間の美学が追求されたファンキーチューン「Turn Up」(「皆さん盛り上がりましょう、準備してください」と日本語で語りかける!)、ドラムとストリングスのみの最小構成による(例によってベースレスだ)「Angel In The Dark」の前半でまずやられる。この3曲はプリンスしか作れないだろう。

やがてオールドスクールなメロウバラード、ソウルチューン、ブルース等で全体のバランスを取り、彼女のボーカルが幅広い範囲で適用可能なことを知らしめる。繊細すぎるのでもなく、豪快でパワフルなボーカルでもない。「Wild Tonight」で披露するようなエキセントリックなボーカルスタイルも対応可能。この作品はそんな彼女の魅力を十分に引き出すことに成功しており、プリンスのプロデュース力を改めて痛感してしまう。

MJ とプリンスの両人に才能を見出されながらも、二人とも逝ってしまうという不運に見舞われた彼女の胸中はどのようなものなんだろう。これからの彼女の更なる活躍を心から祈っている。

2016年11月5日土曜日

ラーメン 麺徳 東陽町店



仕事で東陽町を徘徊していた日のこと。永代通りをちょいと横に入ったところに改装中のラーメン店を発見した。青いブルーシート、赤い三角コーン、そして黄色い看板…。予定調和的な何かを感じ、思わず入店するとそこは二郎インスパイア系「ラーメン 麺徳 東陽町店」であった。何を隠そう(隠すまでもないが)、東陽町を訪問することが決まった時から脳内フラグがびんびん立っていたのは言うまでもない。開店間もない時間だったので私が初めての客。食券機で「ラーメン」(700円)を買うと、横で待ち構えていた店のおじさんが、すかさず野菜の量と麺の太さを尋ねてきた。野菜が多いと聞いていたので、ヤサイちょいマシの太麺をお願いした。




カウンターは席ごとに線が引かれており、番号が振られている。指定された席に座ると、刻みタマネギやにんにくといった薬味、カレーパウダーや辛味噌、胡椒、唐辛子といったスパイスが並んでいることに気づく。カスタマイズ自由自在というわけだが、着丼した一杯にはわずかながらのニンニクを入れるのみ。業務中につきニンニクは控えめにするのだよ。普通は入れないなどと野暮なツッコミは止めてほしい。それが漢というものだから。言い添えておくとソロ来店していた女子も散見できた。




事前情報によりヤサイの量を控えていたが、これだったら野菜大盛でも難なくイケたと思う。クタ気味でモヤシ比率の高いやつらを胃に回収し、天地を返せばエッヂの立った平打ち太麺が出現した。ガチとした歯応えを感じつつ、ズバズバ食らうが全体量は控えめに思えた。豚は大型で平べったい奴が一枚入っており、バラ肉のフワトロさではなくロースの肉々しさを感じた。スープは豚骨成分が溶け切っているのでとろみがあるが、塩分控えめで割とライトな味だ。ただし奥行きと深みという立体的な次元を感じさせる、とげとげしさの少ない高得点スープ。途中で刻みタマネギを加えて、スッキリした味付けに変化させる。とろりとした上澄みアブラを回収してご馳走様だ。仄かにニンニク臭を漂わせながら午後の仕事場へと向かった。


住所:東京都江東区東陽3-15-3

ラーメン 麺徳 東陽町店ラーメン / 木場駅東陽町駅
夜総合点★★★☆☆ 3.7
昼総合点★★★☆☆ 3.7